倉庫のトレーサビリティ管理とは? -品質管理研究所-
トレーサビリティ(Traceability)とは、製品はもちろん、製品に組み込まれる部品のひとつひとつにおいて、
その生産先や流通経路はもちろん、どこのお客様で使われているかまで、
前後の経路を追跡(Trace:トレース)ができること(ability)をいいます。
いつ、だれから、どんなものを受け入れ、どんな製品にくみこんで、
どのお客様に納入したのか、
そんな情報が、すぐ取り出せるように管理されているでしょうか。今回は、そんなトレーサビリティを担う倉庫(Warehouse)に焦点をあてて、考えてみましょう。
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<倉庫のトレーサビリティ管理 8つのポイント>
1)部品・製品情報の紐付け管理 入庫した部品と製造された製品の紐付けができていますか。
2)不良対象ロットの検索と特定 お客様の情報から問題のある製品や対象範囲となる同一ロットを特定できますか。
3)長期保管管理と再検査 長期保管された場合の出荷製品の再検査ルールが明確になっていますか。
4)倉庫でのヒューマンエラー防止 製品の間違い、納品書の間違い防止をはかるための方法が明確になっていますか。
5)現物と情報のタイムリーな管理 実際の在庫とPC管理上の在庫(帳簿上の在庫)が一致していますか。
6)保管管理条件の妥当性と現物管理 使用時や出荷時の製品の消費期限、保管条件のチェックがされていますか。
7)見落としがちな通い梱包品質 通い箱の保管・清掃・使用回数などの管理基準が明確になっていますか。
8)納入先の変更管理 久しぶりに取引する場合の納品場所の移転等のチェックがなされていますか。
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1)部品・製品情報の紐付け管理
〜入庫した部品と製造された製品の紐付けができていますか。 
倉庫に入庫した製品がいつ、どこでつくられたのか、製品から把握できるように、購入する部品や材料の納入仕様書に部品のロットナンバーの定義を入れておくことが大切です。
一般に、ロットナンバーの定義には、年月日、工場名、生産連番、製品識別番号などが記載されます。このような管理番号は、問題が起きた時、迅速に解決できるように、
納入される製品や梱包にラベルとして、印字したり、バーコードなどを活用し、識別管理します。■ ロットNo 例) 20120401-001-A
2012年4月1日 工場名Aで1番目に製造(検査)したロット
生産工程では、倉庫からこのような管理された部品を受け入れ、製品に組み込みます。
工程内でどのロットが、製品に組み込まれているのか、識別されて、各種の製造記録書や日常点検表などと製品の識別番号が紐付けされることで、どのような状態で製造されたものであるか、いつでも確認できるようにしておくことが求められます。
最近では、IT化もすすみ、工程内で紙を一切使わず管理するペーパレス化を実現して、リアルタイムで効率的に情報を集約して、すぐに品質改善に活用できるようにしている先進的な企業もあります。
また、スーパーなどでは、口にいれる食べ物として、安心して購入できるように、果物や野菜の生産者自らの名前やバーコードをはって、いつ、誰が、どこで、作ったかわかるようにして工夫しています。農家さんの顔写真などもはって、トレーサビリティを販売につなげるように、うまく活用していることを見かけたこともあるのではないでしょうか。

このようにサプライチェーンの中で、分業がすすんでも、生産のつながりや販売などのトレーサビリティをきちんと取れることは、作り手が製品への責任をもって納入し、売り手が信頼してお客様に販売することにもつながり、買い手の安全・安心にもつながる品質を担保する「見えない力」ともいえるのではないでしょうか。
2)不良対象ロットの検索と特定
〜お客様の情報から問題のある製品や対象範囲となる同一ロットを特定できますか。問題が発生したときは、お客様へ出荷した製品の識別番号情報を教えていただきます。
問題の原因を追究するだけでなく、被害を最小限に抑えるために、造られた製品のロットNoから、品質不良の対象範囲を絞り込むことが求められます。
そのため、
同一ロット(対象範囲)ですでに出荷された製品の数量、自社倉庫に保管されている数量、さらに、他社に納品している同種の製品の数量などがすぐに確認できるような仕組みづくりが必要です。すぐに対象範囲を絞り込めるように日頃から管理を徹底していなければ、お客さまに対する素早い対応はできませんので、
お客様から頂いた製品の識別情報をもとに、製品や使用部材の生産・保管・流通情報がすぐに取り出せるように、日頃から確認しておきましょう。また、購入する部材でも品質問題が発生しますが、原因調査の結果、サプライヤーさんから適切な回答が得られない場合もあります。そんなときは、生産情報の管理記録が、抜けがおおかったり、作業者によりばらつきがあったりして、原因追究の深堀が出来ていないことも懸念されますので、製造現場での記録項目のもれがないように、変化点の記録をきちんと残せるように、フォーマットを改定し、教育をすることが必要になります。
3)長期保管管理と再検査
〜長期保管された場合の出荷製品の再検査ルールが明確になっていますか。製品検査を行ってから、様々な理由で在庫として、長期間保管してしまった場合、製品検査ではいったん合格して倉庫に保管されているものの、現実には、製品の劣化などやおもわぬ変化が生じていることがあります。
そのため、一定期間保管して品質の劣化が発生していないことを再度検査により確認することで、市場での不良を未然に予防することが大切です。過剰な在庫を生み出さないような受発注の管理をすることが基本ですが、長期保管が生じた場合も想定して、倉庫での長期保管における再検査の社内規定を事前に明確にしておくことが大切です。倉庫管理と品質管理・検査部門は別の場合が多く、保管期限を確認した倉庫担当者が、品質部門に検査を要請するような連携も求められるでしょう。

また、保管期限を越えているものの品質に影響がないことが確認された場合については、お客様への事前の説明や最終製品での確認を含め、採用可否を判断頂き、納入しても、最終製品で品質問題が発生しないようにすることがかかせません。
個別の材料で問題ないと判断されたものでも、最終製品において、品質上思わぬ悪い影響を及ぼすこともありますので、特に、「思いこみ」には、注意が必要です。「業界の常識」は、「他の業界の非常識」と思って、きちんとお客様と情報を共有し、確認することが大切ですね。4)倉庫でのヒューマンエラー防止
〜製品の間違い、納品書の間違い防止をはかるための方法が明確になっていますか。倉庫での入出庫業務では、社内と社外、社内倉庫と生産現場のトレーサビリティの変化点でもあり、間違いが生じやすいポイントです。
多種多様な製品取り扱う企業の場合、類似の製品を生産・保管するため、製品の間違いや納品書の記載内容の間違いなどが生じやすく、取り扱うラベルに色をつけたり、置き場を区別したり、さまざまな工夫でヒューマンエラーを防止することがかかせません。
このような倉庫での製品の入出庫にかかわるわずかなミスが、品質管理体制のほころびとしてお客様に認識されれば、製品本体の品質やまで疑われることになりかねませんので、倉庫での管理ルールの妥当性や管理方法の徹底などに注意しましょう。
5)現物と情報のタイムリーな管理
〜実際の在庫とPC管理上の在庫(帳簿上の在庫)が一致していますか。製造業におけるトレーサビリティは、「モノと情報をつなぐこと」ともいえます。お客様から要望された製品を必要な数だけ納入できるように、適切な数量を製造し、タイムリーに納入できるよう、倉庫での部品、製品、製造工程での仕掛品の情報と現物が、もれなくだぶりなく対応している必要があります。
倉庫の現物の数量確認のために棚卸しが実施されますが、取引量の多い生産品などでは、材料の受入と製造工程への払い出しのタイミングが多く発生しますので、保管場所に管理シートをおいておき、入庫/出庫欄をもうけて、数量、残量を記載し、いつ、どれだけ使用(納入)して、どれくらい残っているか、タイムリーに把握できるように日頃から管理してくこともおすすめです。
海外の部品の場合では、製造リードタイムの長さに加え、船便輸送によって、月単位の納期が必要な場合もあります。使いたい部品の発注から納入まで、多大な時間のかかるケースも多く、適切な在庫の管理をしていないと、納期対応のために、空路での輸送を選択しなければならなくなり、コストアップにもつながりかねません。品質もコストにも大きく左右する、倉庫の役割を改めて見直し、現物と情報の管理の課題を改善し、正確な在庫情報をタイムリーに吸い上げる仕組みをつくりましょう。
6)保管管理条件の妥当性と現物管理
〜使用時や出荷時の製品の消費期限、保管条件のチェックがされていますか。部品や製品によっては、消費期限や保管条件が設定され、倉庫での厳しい管理が必要な場合もあります。生鮮の野菜などは、先に成熟して、刈り取られた野菜から出荷される先入先出(First in First out)が行われますが、工業用の部品や製品であってもこの
First in First Out(FIFO)のルールを徹底し、常に新しいものが保管管理され、管理期限が守られるようにすることが大切です。
また、消費期限や保管条件として、適切な保管条件のもと、未開封で保管される場合の消費期限と、開封後の使い残し品が保管される場合では、消費期限が異なる場合もあるので、その管理条件の妥当性を確認したバックデータをきちんともっておくことが大切です。もちろん、
開封後の部品、製品の袋などの口の止め方など保管手順と方法が明確になっていない場合が多いので、品質低下が起きないように注意しましょう。
さらに、
あまった材料の在庫への戻しなどイレギュラーな作業によって、品質が保持されている製品の劣化や在庫数量管理で齟齬が生じないように、実務で担当者が判断にまようポイントを明らかにして、管理ルールを明確にしておきましょう。
7)見落としがちな通い梱包品質
〜通い箱の保管・清掃・使用回数などの管理基準が明確になっていますか。トレーサビリティが必要なものは、部品や製品ばかりではありません。
梱包に使用する通い箱や再利用される緩衝材などは、トレーサビリティを確保することが重要です。納入された後に、そのまま返却されるため、以外と安心しやすいため、逆に品質管理上の問題を起こす見落としポイントといえるので注意が必要です。通い箱とは、納品時、ダンボールなどの箱にいれて納入されますが、使用後の梱包容器を廃棄するのではなく、納入元であるサプライヤーさんに返却して、納入時に再び活用するリユース型の梱包のことです。製品数量が多く、毎日大量生産するような製品の場合には、配送コストや梱包材量の低減をかねて、通い箱が活用されます。
また、緩衝材は、数量に応じて、製品間や梱包箱の隙間をうめたり、輸送の振動を緩和する用途などに使用される製品にはならないものです。
通い箱や緩衝材などは、取引開始時には、新品で新しいため、強度もあり、きれいな状態ですが、生産先と納入先を行き来する中で時間がたつと、破損、強度の低下、表面の汚れ、異物のこり、などが生じてきます。
しかし、
出荷時には、製品品質の確認が中心のため、通い箱にまで、管理の目が行き届いていない場合が意外と多いものです。そのため、通い箱に識別番号をつけて、使用回数の履歴をつけてトレースし、返却後の通い箱や緩衝材を清掃し、外観チェックを行い、破損や汚れがないようにして、保管容器そのものの品質も確保することで、製品の輸送品質を高めることが求められます。
だれか大切なひとにモノをプレゼントするとき、梱包が汚れていたり、こわれていることなど通常考えられないように、大切なお客さんにモノを納品するとき、どのような気持ちで納品したら、よろこばれるか考えてみると、自ずと何をしなければならないか、わかるのではないでしょうか。
8)納入先の変更管理
〜久しぶりに取引する場合の納品場所の移転等のチェックがなされていますか。前回の取引から期間があく場合は、納入先である工場が、当時の場所から、新しい場所に移転していたりすることがあります。大企業であれば、同じ製品を取り扱う複数の生産拠点に納入する場合もあるでしょう。
大切な製品をお届けする住所の間違いで、お客様の生産に支障をきたすことのないように、納入先の住所などの変更管理も行い、出荷先をきちんと確認した上で、納入しましょう。今回は、倉庫でのトレーサビリティ管理について、8つのポイントをご紹介しました。
トレーサビリティの言葉の意味「追跡が可能である」は、前工程の大切な管理情報を適切に後工程(お客さん)に伝えて、紐付けをするフィードフォワードが前提となっています。
前工程でしか知りえない大切な管理ポイントを後工程に引き継ぎ、情報を共有する仕組みやルールをつくり、品質向上に役立てていきたいものですね。【関連記事】・
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