(2014年8月14日)品質管理研究所
ものづくりでは、工程品質を定量的な数値で管理し、
客観的に数値を理解できることが大切です。
ただ単に測定機器で算出される数値だけでなく、
数値の計算によって、管理される品質特性値もあります。

例えば、樹脂の塗布重量管理、接着剤の重量管理、2液の配合比率管理など、
製造上の工程品質のばらつきを確認するために工程検査をおこないますが、
ヒトが計算する場合、「計算ミス」が存在していることに注意が必要ですね。
今回は、工程検査で、ひとの計算に関わるミスをどのように防げばよいか考えてみましょう。
@五感にはたらきかける2重のチェック
数値計算に電卓を使用する場合、電卓入力の際に、数値の入力ミスが発生します。正しく、数値ボタンを押したつもりでいても、入力されていない場合や誤入力されている場合には、気づかないうちに誤りとなることから、数字をおすたびにしゃべってくれる「音声電卓」を活用するのがおすすめです。
目による視覚での確認と耳による聴覚の確認のダブルの確認により、作業者の数値の入力作業の間違いを防止します。計算を必要とする世界中の多くの企業の工程で取り入れられているおすすめの方法です。音声電卓がなくても、まずは、すぐにできる、自ら声に出して、計算確認する方法からスタートしてみるのもよいでしょう。
A見直しによる自己チェック
学校での算数のテストを思い出してみてください。100点満点をめざすためには何をすればよいでしょうか。試験中に計算したあとに、計算のケアレスミス防止のために、「見直し」をおこないますね。自分がおこなった計算が正しかったかどうかを再度計算して、誤りがないか自己検証をおこないます。
製造工程でも不良ゼロの100点満点を目指すためには、間違いを防ぐための自己確認作業が必要になります。作業者自ら、問題意識をもたなければ、うっかりミスはなくなりません。だれかがチェックしてくれるからと思わず、作業者さん自らが、最高の100点をめざして、2回目の計算・確認する意識を醸成していくことが大切ではないでしょうか。作業手順として2回計算することは容易ですが、その目的意識と必要性を理解していなければ、見直しの意味も薄れることを理解しておかなければなりません。
電卓の機能として、「検算機能」がついている場合には、2度目の計算が1度目の計算と同じく、正しいかどうか自動的に検証することも可能ですね。電卓を使用した計算はだれにでも簡単できることだからこそ、注意してあげたいものです。
B3人による3重のチェック
ひとりの作業者に確認を任せつつも、ひとりのチェックだけでは、組織としての確認が十分とはいえません。人間のミスは、必ずあることを前提にしなければなりません。

ひとりだけの確認では、出荷検査のようなチェックシステムが働かないことから、現場での測定・計算作業者だけでなく、管理責任者が、計算間違い防止の再計算と基準上下限範囲内の確認をおこない、問題なければ、確認サインをおこうことで2重のチェックをおこなうこともおすすめです。
これは、学校で、生徒さんが解いた回答結果を先生が再計算して、チェックするようなものですね。さらに、ものづくりでは、生産にかかわる人員だけでチェックするのではなく、品質部門が、工程パトロールの中で、一定の時間間隔ごとに抜取検査を行い、客観的なチェックをおこなっていくことで、3重のチェックを実施することになります。
電卓は、電池切れや故障なども発生します。工場では、計算が必要にもかかわらず、電卓そのものが準備されておらず、作業者さんが自分の携帯電話の電卓機能を使用しているようなことが発生しないように計算だけでなく、作業環境と設備の確認も大切なことです。正しく計算をおこなうために、壊れた電卓がないか、工程に必要なものが正しく用意されているか、作業しやすいようにどのようなことをすればよいか、環境や道具を整備して働きやすい環境をつくっていくことが管理者としての重要な役割になります。
管理者としてのチェックは、計算結果のチェックにとどまらず、不足しているものにどんどん気づきたいものですね。
C計算プロセスの記録によるミス防止
実務上、作業者が計算のため、専用の記録用紙と異なるメモ紙をもってきて、別に計算している場合を見たことはないでしょうか。現場で数値が記入されている紙が無造作に置かれていれば、そこには、本来必要な記録シートが不足している合図といえます。

学校のテストで、試験用紙に計算をメモのように書くのと、解答用紙に正確に記入するのとではどちらが、間違いがおこりやすいでしょうか。特に、測定した2つ以上の結果をもとに計算をおこなう場合、必要となる最終の計算結果だけを記録するのではなく、その計算プロセスがわかるような記録用紙にしておくのがおすすめです。
現場の実務作業にあった数値の記録と計算過程の記録が可能なフォーマットを作成することで業務のミス低減だけでなく、どこで計算間違いが発生したかを追跡することが可能になります。記録した数値の記入間違いがおきないように、あらかじめ少数点の位置や数値の桁数が制限できるような点線での区切りを入れたフォーマットにする工夫もおすすめですね。
D測定結果の自動入力・判定
工程で測定された数値をPCのEXCEL上に手入力することもあります。手入力の頻度が上がれば、入力ミスも発生しやすくなります。測定した結果を作業者が入力すると誤りが生じるもとであることから、測定した結果をPC内に自動で取り込み、自動で計算させて判定し、間違いが生じた場合には、自動で検出されるようにシステム上で計算することもできます。できるだけ、人の数値入力と計算作業を省けば、作業ミスも、作業のむだも、少なくなります。
銀行のATMでお金をおろすときに、銀行のひとが関わらず機械的に自動計算しているように、ものづくりの工程でも、できるだけ楽に作業できるような工夫が求められますね。

例えば、厚み測定の場合など、デジタルの厚み測定ゲージをPCと接続しておくと、複数回測定した記録を順番にPCのEXCEL上に出力していくことが可能です。出力したEXCELシートには、その特性値の上下限の基準範囲、平均値、標準偏差をあらかじめ設定し、セルの書式設定で合格範囲外であれば赤く色がつくように設定することで、計算を自動で行い、判定も自動でできることになります。なにか、複雑なシステムを導入するのではなく、まずは、今ある測定機器の機能をフル活用して業務を楽にすることを考えてみると、仕事が楽しくなるのではないでしょうか。
E計算そのものを排除する「風袋引き」機能
計算そのものをなくせば、計算のミスはなくなります。
例えば、対象製品に接着した接着剤の塗布重量だけを測定したい場合、はかりによる測定で、塗布前後の製品の重量を差し引きすれば、接着剤の塗布重量を測定することができますが、できるだけ、煩雑な計算を行わないようにできないでしょうか。
はかりの機能として、風袋引き(容器などの重量をゼロにリセットして、正味の重量を測定する機能)がついている場合には、例えば、測定対象物の重量を測定し、ゼロにリセットしておき、接着剤を塗布後、再びその塗布した製品を計量し、塗布した重量だけを求めるやり方が可能です。計算がいらず、風袋引きのボタンを押すだけの簡単な作業のため、計算そのものをなくすこの方法は、計算ミス防止につながります。風袋引きは、袋に食品などをいれるときに、袋の重量を除く、食品の正味の重量を計量するために使用されるもので、多くのはかりに標準的な機能としてついているものですので、多くのものづくり工場で活用されています。
以上、今回は、ものづくりの工程での計算の間違い防止について、紹介いたしました。
計算ミス防止のために、工場で余計な費用をかけずにできることはたくさんあります。出すべきものはお金だけではありません、まずは、知恵をだすことを考えてみたいものです。創意工夫がなければ、よいお金の使い方にもつながりませんね。
何か一つでもみなさんの仕事で現場の計算ミスを防止するためのヒントがあればうれしくおもいます。
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