2014年12月28日

大企業病「部分最適化」のわなとは?

大企業病「部分最適化」のわなとは?
(2014年12月28日)品質管理研究所

大きな企業ほど、各部門が細分化されやすく、
部門独自のミッションを優先して、仕事をしがちです。

まずは、「1台のピアノを、2人で弾くこと」を想像してみてください。

全体最適化とは?

2人それぞれが思うがまま、ピアノをひいてしまうとどうでしょうか。

せっかくのメロディも、台無しになってしまいますね。
2人が、いきをあわせて、ピアノを弾くことが、かかせません。


複数の部門で仕事をする企業の実務でも、同じことがいえるでしょう。

たとえば、購買部門が購入する部品の単価の低減に成功しても、
その部品により、次のようなことが起こるとどうでしょうか。

現場の生産性が低下し、生産数量ダウン・歩留り低下が発生、
設備・治具の追加投資によるコストアップ、
生産機種数増加による管理工数増加、
アフターサービス対応や在庫の増加、

そうれなれば、会社全体としての収益が低下してしまいます。

もちろん、将来、市場のお客様での品質不良が発生すれば、
一時的な収益もとたんにふきとんでしまうことでしょう。

一つの側面(部門)から見て正しいことも、
全体(会社)からみると効果があがっていないばかりでなく、
むしろ、全体(会社)の足かせにさえなっていることもあるものです。


これは、「部分最適化」の弊害であり、
「全体最適化」の視点をもって、仕事をすることが求められます。


「それはうちの部門のしごとではない」という言葉や雰囲気
あなたの身の回りで聞いたり、感じたりしたことはないでしょうか。

部門としての価値観で仕事をすれば、
部門間に「心の壁」を作ってしまいやすいものです。

部門が、分割されることで仕事の役割と責任が明確になり、
専門性が高まり、業務効率が上がることはよいことですが、
いっぽうで、業務のつながりを妨げてしまい、
最終的に悪い結果に結びつくものであってはなりませんね。



業務で細分化された部門の意思決定と仕事の進め方が、
全体として本当に価値あるものであるか、
仕事の中でいまいちど考えていきたいものです。


あなたの仕事の周りでは、仲間と奏でるピアノのように、
息のあった良いメロディがいつも漂っているでしょうか。

その心地よいメロディにひきこまれる仲間も増やしていきたいものです。


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2014年11月24日

爪に学ぶ「習慣の改善」とは?

爪に学ぶ「習慣の改善」とは?
(2014年11月24日)品質管理研究所

爪を見ると、爪の色や形から、ヒトの健康状態がわかるといわれるほど、
その先端にある小さな爪に、日頃の健康状態が現れてきます。

爪と健康

ものづくりの工場でも、
さまざまな問題が、現場の最前線「先端」でおきています。
工場にとって、工場の健康状態を示す「爪」は、どこにあたるのでしょうか?

工場の健康状態は、わずかな変化としていたるところに現れているはずですが、
あまりの日々の現場の忙しさに追われ、
問題が顕在化するまで小さな変化に気がつかないことも多いのではないでしょうか。
問題が起きた時にこそ、心を落ち着かせ、今後のために振り返って見ることが必要です。

ヒトの爪は、どんどん伸びてくるため、定期的にカットします。
単に切るだけでなく、爪の健康状態(工場の健康状態)も見られているでしょうか。
単なるカットする作業の繰り返しだけでは、見落としているものがあるはずです。

ときに、伸びた爪を深く切り過ぎてしまった場合には、
新しい爪が伸びてくる段階で、巻き爪が発生しやすくなりますね。
爪の先端の白い部分が切りしろとおもってカットしていると、
実は切りすぎになっていることも多いものです。

ものづくりの工場で、爪を正しくカットするように、
製造工程や検査工程で正しく検証された手順や基準になっているでしょうか?


巻き爪によって痛みを伴うと足をかばうだけでなく、
腰や肩などに負荷がかかり、体のバランスまでもくずれてしまいかねません。

伸びた爪を切るときの小さな作業のミスによって、
工場でも、全体のバランスを崩し、さらに大きな問題をひきおこす要因となることがあります。


また、巻き爪は、爪を深く切りすぎるだけでなく、
日頃の歩き方で先端の指に圧力がかからない歩き方をしている場合や、
自分の足にあわない靴をはきつづけている場合など、

足の先端のつめに負荷がかかる状態を
自らつくりだすことによっても発生しやすくなります。

品質習慣の改善

いったん症状が良くなっても、巻き爪になる要因が残っていれば、
再発する可能性があることを理解しておかなければなりません。


工場で起きている目の前の問題を根本的に改善することも同様ではないでしょうか。

すぐに問題の痛みを取り除く迅速な処置も大切ですが、
処置したあとに根本的な原因を解決しなければ、問題は再発してしまいます。

問題のある日頃の「習慣」を改め、その工場の本質的な問題に目を向け、
時間をかけてでも着実に見直すべきことは何か考えていきたいものですね。


ひとの健康も、工場の健康も失ってから気づくことが多いものです。
現状の健康に感謝して、うまく品質改善にいかしていきたいものですね。

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2014年03月05日

TQMとは?

TQMとは?
(2014年3月5日) 品質管理研究所

ものやサービスの品質を維持向上させていくためには、何が必要でしょうか。

日本企業は、現場の最前線にいる社員が現場のコツコツ地道な改善の積み重ねで、
製品やサービスの品質を継続的に改善させていくのが非常に得意ですが、
経営者がリーダーシップを発揮して、全社的に品質を高めていく組織力も重要です。

TQMとは

今回は、この組織での経営品質向上の考え方『TQM』についてご紹介します。

____________________________

<TQMとは?>
(1)TQMとは?
(2)TQMの生い立ちとは?
(3)トップダウンによる「方針管理」と管理サイクル「PDCA」
(4)プロセスの品質 「ハード×ソフト×ハート」
(5)「顧客指向」と「全員参加

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(1)TQMとは?
TQM(Total Quality Management)は、「総合的品質マネジメント(総合的品質管理)」とよばれ、品質を「モノ」や「サービス」だけにとどめず、「経営」そのものを品質向上の対象とする組織的な経営管理の考え方です。

TQMは、日本企業が得意としてきた部門やグループを中心とした製品やサービスのボトムアップの現場の改善が中心のTQC(Total Quality Control)に加え、経営全体の最適化を目指した欧米が得意とするトップダウンの改善の視点が加わった品質の考え方です。

TQMによる品質改善活動は、ものやサービスを提供する製造・販売部門や品質部門だけに限定された取り組みではありません。また、品質改善は、ものづくりだけでなく、医療の世界の分野などあらゆる分野に適用できる優れた考え方です。

TQMは、全ての部門と社員が、顧客の満足と笑顔のために何ができるのかを考え、行動するボトムアップも大切です。経営者のリーダーシップと社員の協力で、組織間にまたがる難しい問題も含めて、解決していくことが期待されます。


(2)TQMの生い立ちとは?
1946年米国のデミング博士が日本で統計的品質管理の講演を行いました。その後、日本の製造業を中心にして、米国での品質管理の良い考え方をとりいれ、日本の組織風土にあったQCサークル活動などが多くの会社で展開され、TQC(Total Quality Control)活動が普及していきます。

米国では、1970年代以降、ものづくりの世界で急成長する日本企業との競争激化もあり、対抗するために、日本のTQC活動も研究し、1987年には、国家競争力向上のため、米国で優れた経営システムを構築している企業を大統領が表彰するマルコム・ボルドリッジ国家品質賞The Malcolm Baldrige National Quality Award(MB賞)が制定されました。そして、「経営の質」の向上を目指していく「TQM」が誕生していくことになります。

また、イギリスでは、1974年「品質保証システムの実施と評価の指針」が発表され、その後、品質マネジメントシステム(QMS: Quality Management System)が国際規格ISO9000シリーズとして制定され、現在、世界中の多くの企業が品質マネジメントシステムを取得するに至っています。

TQMは、国際間でよりよい品質のモノを生み出すために各国競争して、自国にあった形でうまく進化させて誕生した実務的な考え方といえます。このように、TQMは、生きた活動であり、TQMとは何か、どのような考え方か、何をすればよいのか、各社で考え、定義することがTQM活動のスタートになるのではないでしょうか。

以下では、具体的なTQMのポイントについてご紹介していきます。


(3)トップダウンによる「方針管理」と管理サイクル「PDCA」
経営者自らがリーダーシップを発揮して、どのように目標を達成していけばよいでしょうか。

品質分野では、上位の品質方針を設定して、過去の実績から、品質目標を設定して、部門、グループ、担当者といった具合に階層別により具体的な目標を設定して、実際の担当業務におとしこみます。各自、各グループ、各部門が目標を明確にして、定められた期間に目標を達成することで、組織の大きな目標をトータルで達成することができるようになります。

このトップダウンの方針管理手法は、TQMでの基礎的な仕組みの一つであり、多くの企業で活用されています。

また、実務では、市場での品質不良削減目標、工程での品質歩留り目標、顧客満足度など、実質的な品質向上目標を組織の目標として「見える化」して、担当責任者とスケジュールを組み、改善に取り組み、進捗をフォローアップするPDCA(Plan/Do/Check/Action)の管理サイクルの手法も大切な考え方です。毎週・毎月の品質会議や毎日の朝会などで、他部門とも情報を共有し、お互いの課題と問題を明確にして、協力して仕事を進め、継続した品質改善につなげていきます。

このようなTQMの考え方や手法は、品質分野に限定されず、企業経営やものづくりをサポートする部門の管理においても、役立てることができる基本的な運営管理手法として活用します。組織で、仕事をする上での「仕事の基本」として、定着させていきたいものです。


(4)プロセスの品質 「ハード×ソフト×ハート」
「モノ」や「サービス」の品質を高めるためには、結果だけではなく、お客様にはみえにくい製品やサービスをうみだすための「プロセスの品質」そのものを高めることが重要になります。

その高い品質を生みだす「プロセス」には、何が必要でしょうか。

品質を改善するための組織(ハード)と仕組み(ソフト)、そして、なにより品質に対する「心(ハート)」がかかせないのではないでしょうか。経営者自らがその経営における品質の重要性を認識し、経営者の「ハート」が、社員の「ハート」に火をつけるときこそ、プロセス品質が向上していくのではないでしょうか。

TQMと品質管理

他社でうまく機能している優れた管理手法や優れたITシステムによる優れた仕組みを導入しても、実力が発揮されず、活用しきれないことがあるのは、いったいなぜでしょうか。

プロセスを高めるための仕組みを導入する際の動機、その必要性、過去の改善の取り組み経緯など社員の意識と組織の心(ハート)の準備が十分整っていなければ、「手段の目的化」という弊害を生じさせてしまいます。「手段の目的化」は、本来、手段であるはずの仕組みが、単に仕組みを入れることが目的化する本末転倒な状態のことです。目的意識が欠如して、仕事の本質がみうしなわれているときにおきやすい問題であり、長期的にみると失敗が拡大する可能性が高いので、注意しなければなりません。

仕組みを運用するのは組織であり、ひとです。仕組みを活用する経営者と社員のハートに火をつけて、プロセスの品質の向上に役立てていきたいものです。


(5)「顧客指向」と「全員参加」
TQMは、製造・販売部門や品質部門だけに限定されるものではありません。TQMが目的とする「顧客指向」は、設計・開発、人事・総務、倉庫、営業・販売、企画・戦略などあらゆる部門のしごとの基本です。たとえ、お客様と直接の接点がない部門でも、できることはないでしょうか。

TQMと品質管理

「後工程はお客様」という考え方で、自分の仕事が他の仲間の社員の仕事の質を高めていければ、お客様と接点をもつ社員の仕事の質も高めて、最終的には、お客様の喜びと感動につながっていきます。どのような仕事や現場においても、経営の品質を高めることにつながるはずです。

「あなたは、お給料をだれからもらっていますか?」

その答えは、はたして、「会社」でしょうか。その先にいる「お客様」と考えることもできるのではないでしょうか。組織が、大きくなればなるほど、仕事も細分化されて、お客様との接点やつながりも少なくなることも多くなり、「作り手の論理」でものごとを考えがちになります。

お客様からの貴重な情報が、十分社内に伝わって、品質改善に結び付けられているでしょうか。
組織横断的にお客様の情報とお互いの部門情報を共有して協力できているでしょうか。社員全員で、お客様の声に耳を傾けて、お客様の目線になって考え、行動するために、どんな取り組みができているでしょうか。


実務では、多くの企業で、全社での改善提案制度による表彰・報酬制度などが実践されています。改善の効果を検証し、金額ベースで改善を算出するとより、経営とのつながりが見え、より効果のある活動につなげられます。多くの社員を巻き込んで、活動をマンネリ化させずに盛り上げていくかも大切なポイントです。


以上、今回は、TQMについて、ご紹介しました。

TQMの優れた経営管理手法として、シックスシグマ、バランススコアカードなどの方法も知られています。品質改善の手法としては、QC7つ道具や新QC7つ道具などもあります。しかし、品質を高めるために、ただ仕組や手法をやみくもにとりいれても、形式的になってしまえば、その考え方もいかされず、むだな仕事を増やすばかりです。

海外の新興企業を工場監査すると、海外企業との国際取引のため、ISO9001品質マネジメントシステムを導入して、社外にPRしていても、あまりに形式的で、認証をとることが目的化して、品質改善の仕組みが実務ではうまく活かしきれていない会社もみうけられます。

品質マネジメントシステムなど、仕組みや手法の導入が先立ち、本来の品質向上という目的よりも、企業にその手法事態を取り入れることが目的化すると本末転倒です。結果として、むだな書類を増やしたり、むだな作業や形式的なイベントや会議を増やすことにつながってはなりません。

「無駄」を増やすのではなく、企業の経営品質そのものを高めて、「お客様の満足と笑顔」を増やしていけるよう、TQMの考え方をうまくとりいれたいものですね。


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posted by かおる at 06:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 品質思想