製品を構成する部品や材料の品質が高くなければ、高い品質の製品をお客様にとどけることができなくなります。
これまで取引実績のあった企業であれば、過去の製品実績や製造工程などを知っていて実力を把握しており、改善もしており問題が発生しにくいものです。いっぽうで、新規に取引をするような場合は、ゼロからの立ち上げとなると、特に注意が必要になります。
未然に問題が発生しないように注意を喚起するとともに、問題が発生した場合のリスクを回避するために契約を締結することがかかせません。

では、新規の材料や部品を購入し、新たな企業と新規の取引を開始する場合はどんな契約をすればよいのでしょうか。
企業によって、詳細な名称などは、異なるでしょうが、一般的には、下記の3つに大きくわけて考えることができるのではないでしょうか。
@基本取引契約書 〜 企業対企業の取引開始に伴う契約
A仕様書 〜 特定部品の技術的な契約
B品質保証の覚書 〜 企業対企業の品質に特化した契約
以下では、契約の詳細について、説明します。
@基本取引契約書
新規の取引に際して、今後継続して取引する企業として、コンプライアンス上、法律上、経営収益上などさまざまな観点から問題ないかを調査されます。その調査で、問題ないと判断されて、基本取引契約書が締結されます。基本取引契約書は、企業が取引の上で一般に守るべき項目を事前に確認し、問題を未然に防ぐと共に、問題が起きた場合に粛々と対応できるように事前にとりきめる契約になります。
納期対応、品質対応、クレームの対応、生産できなくなった場合の対応、工場への立ち入り監査、要望書類の提出責任、重要文書の保管期間の設定、裁判所の設定、刑事上の問題を起した場合の取引契約停止など、様々な項目が詳細に記載されます。
A仕様書
仕様書では、特定製品に対する技術的な仕様の取り交わし内容を記載します。具体的には、製品の名称、種類、材料構成概要、製造方法、保証特性(単位、数値と範囲、測定方法)物性の代表値(単位、数値、測定方法)、外観基準など合否判定基準、保管条件、使用期限、推奨保管条件、検査方法詳細(JISや独自の手法など)、梱包方法、検査成績書、MSDS、QC工程図、環境有害物質未使用確認書(ROHS規制など)、などを盛り込みます。欲しいと思う商品になるようにしっかり内容を記載しておくことが必要です。問題が発生した際は、この仕様書に記載の項目を判定基準にして判断しますので注意が必要ですね。
B品質保証の覚書
製品の品質を保証するために必要な項目について、明記したのが品質保証の覚書です。
海外の契約書では、基本取引契約と一緒になって、記載されている場合も多くみられます。海外は、契約社会ともいわれているように違約金を支払う条項などもありますし、契約書に容易に捺印することとのないよう注意が必要ですね。
品質保証の覚書には、品質基準の設定、製造工程中、市場での問題発生時の費用負担、4Mの変更がある場合の事前の変更申請手続きの義務、製品の品質保証期間の設定、工場への立ち入りと要望書類の提出、瑕疵担保責任にもとづく損害賠償など様々な項目が含まれます。
※瑕疵担保責任:納入された製品に瑕疵(その物が取引上普通に要求される品質が欠けていること、欠陥がある状態)があり、それが取引上要求される通常の注意をしても気付かないものである場合に、サプライヤーが自社に対して負う責任)
また、品質保証の覚書についての運用上のポインは、なんでしょうか。
@取引開始前にきちんと締結
品質保証の覚書は、取引開始前にきちんと締結することが大切です。当たり前ですが…。
いったん取引が始まってしまうと、買い手側の交渉力より売り手(サプライヤー)の交渉力が強くなり、契約が締結しにくくなることはもちろん、問題のおきやすい取引開始時に、問題が起きた場合の対応が不十分になってしまいます。また、企業ごとに締結内容を大きく変更すると、運用上、個別の内容の把握がむずかしくなるので、基本的な内容から大きく修正しないように締結できるように交渉することが大切です。
A問題発生時の対応
契約書の内容は理解しておくことが必要ですが、問題が発生したときに、その契約をあからさまにいうと、お互いの関係がぎくしゃくしやすいので、できるだけ『契約』という言葉はつかわず、問題の重要性を認識してもらい、問題の改善を促すことがおすすめですね。
サプライヤーさんが品質問題をおこすと、サプライヤーさんを敵対者のようにおもってしまうこともありますが、自社の製品にふくまれる部品や材料の一部を製造してくださるパートナーであることをわすれてはいけませんね。品質保証部門にいると、問題をおこして企業さんと打ち合わせをする機会が増えて、つい、パートナーであることをわすれてしまうことがありますので、注意してほしいポイントです。
B法律をまもること
品質保証の覚書の内容が、各種法令に準拠していることはもちろん、さらに、中小企業と取引をする場合には、下請代金支払遅延等防止法などにもとづき、優越的な地位を濫用した対応がないように一担当者としての注意が必要です。『下請け』という負の言葉自体使わないようにしたいものです。
※下記は、大企業の方が、中小企業のサプライヤーさんと仕事をする上で、注意して頂きたいポイントです。特に品質担当者、購買担当者にとっては、大変大切な知識ですのでご参考にしていただければ幸いです。
■ 下請取引改善講習会 財団法人全国中小企業取引振興協会さん
下請代金法の無料のWEBセミナーも提供されていますので、ぜひお役立てください。
以上、今回は、取引開始時の品質契約についてご紹介しました。
契約は、問題発生の抑止力、発生時の対応のため締結することが必要ですが、契約を表にださずとも、前向きに対応できるように日頃から良い関係をサプライヤーさんと構築して、Win−Winの関係でありたいものですね

【関連記事】
・良い部品は良いパートナーから!
・工場監査とは、向上監査!
・虫歯と品質不良の関係?
・納入部材の品質目標とは?
・機種・製造番号の情報品質管理とは?
・動画で学べる『品質思想』〜飯塚教授