食の品質検査-日本生活協同組合連合会の取り組み(2012年11月19日) 品質管理研究所
日本の安全安心な食を見守るコープ(日本生活協同組合連合会)さんの
食の最先端の品質管理の取り組みをご紹介します。 
コープ(生協)は、1844年イギリスの町で、
織物工が、
「混ぜもののない」「量目にごまかしのない」商品を手に入れるために
はじめた小さな取り組みがきっかけになって設立された組織です。
ひとりの消費者の力は、大きな社会の中では小さなものですが、
その小さな思いがつながれば、大きな願いとなり、生活をより豊かにするきっかけになります。
コープは、英語の共同組合(co-operative union)の略で、
消費者が出資金をだし、さまざまな願いをだして、助け合いながら実現し、
利用していく消費者の組織といってもよいでしょう。現在、コープの取り組みは世界中へ広がり、
世界最大の非政府組織NGO組織となっていることも、
いかに優れた取り組みかを示しているといえるでしょう。
これまで、品質管理研究所では、日本を食卓から元気にしたいコープネットさんの
品質管理体制について優れた品質管理事例として、これまで、紹介してきました。
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「食」の品質管理とは? 今回、さらに、お客さんの食に対する品質保証を行うための品質検査について、
CO・OP(日本生活共同組合連合会)さんの最先端の品質取り組みについて、ご紹介します。■ 1 日本生協連 商品検査センターとは? COOPJAPAN Youtube
1972年日本生協連商品試験室としてスタートした日本生協連の商品検査センターは、コープ商品の品質を確保するためにさまざまな商品検査を実施しています。商品の製造委託先などから届けられたコープ商品やその原材料を、製造方法や保管温度などの商品特性を考慮して、検査をしているそうです。
品質を維持向上させるための品質検査としては、下記の3段階の検査が実際されています。
@開発時の品質検査開発段階で実施する新規開発商品に対する品質検査や変更が生じたときのリニューアル商品の品質検査を実施されています。さらに、商品の原料の検査も実施されているところもポイントといえるでしょう。
製造業の一般商品では、設計時の妥当性確認を行う部材の品質検査に相当しますが、開発時点でこのような検査をしっかり行い、品質を維持できる製品であることを評価しておくことは、製品の品質管理に共通するところです。また、試作品や初回生産品の検査を実施することで、開発時の製品が、試作や初物といった節目で、品質上問題ないことを確認する
節目管理も重要なことです。
A発売後の品質検査発売した後に、商品に問題がないか、品質が維持されているかを確認するため、定期的に検査を実施していることも特徴的です。商品の
品質モニタリングを通じて、品質状況の安定性を確認することは、問題の未然防止にもつながるとともに、製造者自らの自主的な品質維持向上を促すものです。
ものづくりの製品の品質保証においても、受け入れた製品の定期的な品質チェックを行うことを製造側に伝え、その結果を問題があるなしに関わらず、情報を共有してフィードバックすることは、工場(作り手)の品質に対する意識を高め、品質の向上に対する取り組みを加速させることにつながります。
品質検査を消費者側で実施することが前提で、作り手側の品質検査が疎かになることは許されませんが、
品質を常に消費者目線で厳しく見つめていることをつくり手に伝えることは、品質向の上でのポイントといえるでしょう。B商品の異常の連絡があったときの品質検査コープ商品に異常があった時には、必要に応じて、迅速に検査を行い、原因の究明に努めているということです。
一般に、納入された製品で問題が発生した場合に原因調査を行いますが、ものづくりをしている取引先に現物を渡して、原因調査をしてもらうだけでなく、同時に自社で現物を確認して、原因を調査して、迅速に改善を行うことは、非常に大切なことです。
モノの作り手側とモノを購入する側の2つの立場で、品質検査(原因調査)をすることが求められます。原因不明の問題が発生したときには、取引先が分析した結果では、報告されない事実が、自社の分析結果で明らかになる場合もあるでしょう。
特に発生原因がグレーで、損失が発生しているような場合、費用の請求(求償)へと発展する場合などでは、実務上、注意が必要であることも理解しておくことが必要ではないでしょうか。■ 2 コープ商品の微生物検査 COOPJAPAN Youtube
微生物は、食中毒の原因物質の約8割を占め、食品の腐敗をひきおこすため、微生物検査が実施されています。微生物検査は、商品を細かくきざんで、溶液と混ぜて培養して、菌の種類や菌数を調査し、さらに、人体に悪影響を及ぼす恐れのある、大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌(O157・026)などをチェックされています。菌を特定するDNAをチェックなども行い、微生物がひきおこす品質上の問題を未然に防ぐために、工場点検や衛生面の改善に活用しているということです。
食品の検査では、目に見えないような菌を特定して、品質改善に活用することが求められますが、製品のものづくりでも同様に、目に見えない部分に品質改善上のたくさんのポイントが潜んでいるものです。
これらの
品質管理上のポイントは、自然と眺めていれば見れるものではなく、特別に見ようとしなければ見えないものです。微生物検査のような最新の分析機器を活用して、見えるようにすることもひとつの方法ですが、一般の品質管理においては、ものの見方、視点をかえて、見えるようにする努力も費用がかからない大切な方法ではないでしょうか。■ 3 コープ商品の農薬・動薬・食添検査 COOPJAPAN Youtube
残留農薬検査、動物用医薬品検査、食品添加物検査では、農薬の使用状況や、養殖魚や家畜などに用いられる医薬品の使用状況に問題がないか、添加物の使用が、商品の設計通りの使われ方をしているかなどが検査されているということです。
残留農薬検査と動物用医薬品検査では、製品になる前の原料と製品になった後の商品としての2段階で検査が実施され、また、食品添加物の検査では、製品に用いられる保存量/酸化防止剤、甘味料、酸性タール色素、漂白剤(亜硫酸)、発色剤(亜硝酸)などの使用状況が検査確認されているそうです。
このように製品を製造する過程でどのようなものを使用して、最終製品が出来上がっているかを検査することは、品質管理上大切なことです。ものづくりは工程管理による品質確保が基本ですが、その工程品質の異常を検出するために、品質検査を通じて、実態を把握することは、抑止力としてはたらくだけでなく、万が一のときにでも、自らで検知することができる防波堤の役割をはたすでしょう。
■ 4 コープ商品の栄養成分・アレルゲン検査 COOPJAPAN Youtube
アレルゲン検査では、アレルゲンとなるたんぱく質を食品から取り出し、発色させた液の色の濃さからアレルギー物質量を算出するということです。また、
栄養成分の検査では、たんぱく質、脂質、水分、ミネラル、糖類などの検査を実施し、
開発品の商品のパッケージ表示に活用されています。このような栄養成分やアレルゲン検査の結果をもとに、商品の表示に誤りがないか、表示以外のアレルギーを引き起こす食材が商品に含まれていないかなどを検査することで品質を確保されています。アレルギーは、お客さんの年齢や、個人の反応具合や体調状態などによって、反応がかわるものであり、安全安心な製品にするためには、表示して告知することが必要になります。
最近の食品の表示では、製造工程で専用ライン化されていない加工品の場合、他の原材料を扱っている製品であることまできちんと表記されていることを見かける場合も多いのではないでしょうか。
例えば、MEGMILKの『盛りだくさんヨーグルト(期間限定)』では、『この製品で使用しているアーモンドを製造しているラインでは、くるみを使用した製品も製造しています。』という記載がされています。
■ 5 コープ商品の放射性物質検査 COOPJAPAN Youtube
コープの
放射性物質の検査は、1986年の、チェルノブイリ原子力発電所の事故を受け、検査を開始されたそうです。東京電力の福島第1原子力発電所事故をきっかけに、さらに検査体制を強化するなど、時代の声に応じた新しい検査を導入していくことも、
消費者目線といえるでしょう。
放射性物質の検査では、調査対象となる食品をミキサーで細かく砕き、均一な状態にして、容器に隙間なく詰めて、検出器にセットをして計られています。さらに、自然界からのさまざまな放射線を遮断し、正確に測定するため、10cmの鉛の壁があるゲルマニウム半導体検出器で測定されています。
食品の中には、自然由来の放射線もあるため、放射性セシウムを特定し、データ化しているということで、どのような値になっているかという結果だけに注目するのではなく、食品の違いによる変動要素など、検査ばらつきを考慮した結果の見方は、非常に大切な検査の考え方です。
ものづくりの品質チェックにおいては、製品の検査測定上、結果に影響を与える因子が何かを事前に把握しておくことが大切です。高額な設備を使用すると検査の結果まで正しいと思いこんでしやすいものですが、本当の結果は、何かを把握するためにはその検出設備の限界や食品固有の違いを理解しなければなりません。その検出限界とサンプル固有の問題を区別して、見極めることが検査の基本といえます。品質問題が発生したとき、あたかも数値で比較されたデータをみると、その違いを本当のものとして受け止めてしまいがちですが、下記のような点で、測定結果にも、ばらつきが生じることを理解しておくことが求められます。
・測定データの基になる測定サンプルを現物から、どの部位からどのように採取したのか
・採取したサンプルは、どのような容器でどれくらいの期間保存したのか
・分析は、どこのメーカーのどの検査設備で測定したのか
・測定する前にどんなものを測定していたか、清掃はできているか、
・何個のサンプルを測定した結果の値を比較しているのか
・検査した数値のもとになる元データの波形はどのようになっているのか
・検出設備の校正や標準サンプルの測定を通じて、測定結果の正しさが保証されているか
・測定設備のばらつき要因はなにか(測定結果が温度や湿度などの影響で変動しないのか)
・作業者ばらつきが排除され、検査前試料の作成、検査、検査後の清掃等が基準化されているか
このように測定された結果は、さまざまな要因でばらつくことを理解しておかなければなりません。
検査では、特に検査している立場の主観や試験前の予測が加味されやすく、
結果に影響を与える可能性があることを理解しておくことが重要です。
そのため、このようなばらつきが排除できるような検査方法を標準化することが求められます。
品質会議などで、品質に対する数値を議論する場合にも、
単なる数値だけを見て満足するのではなく、このような数値の背景にある実態を理解した上で
品質改善に役立てていくことが求められるのではないでしょうか。■ 6 コープ商品の遺伝子検査・産地判別検査 COOPJAPAN Youtube
コープ商品に使われている原料の種類や、産地が表示どおりか、確認するために、
遺伝子検査や
産地判別検査が実施されています。遺伝子検査では、遺伝子組み換え食品を調べるGMO検査と、どんな肉が使われているかを特定する肉種判別検査を行っているそうです。
特に、産地判別検査では、農産物や水産物に含まれる
金属元素が異なることを活用して、黒大豆、わかめ、梅干、だしこんぶ、などの食品が、判別検査されているというから驚きです。見た目では同じように見える製品でも、科学の力をかりると、その違いが明らかになるということですね。
一般製品のものづくりでは、製品に使用される部材の購入先など関連する部材は指定して、契約上でトレーサビリティを確保しますが、食品の場合は、ひとの体のなかに入るものだからこそ、受け入れる側でも、このような厳しいチェックの必要性が一段と高まりますね。
■ 7 コープ商品の物理・物性検査 COOPJAPAN Youtube
トイレットペーパーの長さを測定するおもしろい試験は、必見ですね。
コープで取り扱われる製品は、食品ばかりではありませんので、トイレットペーパーや洗剤などの日用品に対する物理、物性検査が実施されています。トイレットペーパーの強度や長さが基準を満たしているか、商品に使われている梱包材の強度に問題はないか、洗剤の洗浄力に問題がないか、などの様々な検査が実施されています。
このような試験はものづくりの品質検査と同じで、一定基準を定めた検査規格に対して、できた製品の出来栄えを定量的な数値で確認して、合否判定するものです。お客さんの手元に商品が届くまでに、このような地道な検査をクリアして、使用されていることを少しでも知れるように、企業の品質PRとしても、増えてきているように感じられます。
■ 8 コープ商品の異物・異臭・官能検査 COOPJAPAN Youtube
異物・異臭検査や
官能検査では、コープ商品で、「いつもと違うにおいがする」「薬品臭がする」「何かが混ざっている」というお申し出が寄せられたときに、その問題の原因を調べる検査です。
異なる匂いの製品の場合は、機械分析とあわせて、検査員が、正常品とお申し出品を比較して、匂いを取り出して、人間の嗅覚とあわせて、評価する
官能検査も実施されています。
製品の異物などは、顕微鏡で分析したり、X線や赤外線の混入物の分析を行い、お客様への被害を最小限におさめるように迅速に行われているということです。
実際にお客様からのお電話や相談にどのようにこたえていくかは、企業のCSマインドがあらわれるものです。購入した製品の不具合によって、困った経験をされたことが一度はあるのではないでしょうか。
そんなとき、製造メーカーが、どのような対応をしたかで、企業への印象は大きく変わるものです。このようなメーカーにとって、ピンチともいえるときこそ、お客様の声に、真摯に耳をかたむけフォロー対応し、自社の品質改善に結びつけることが求められるでしょう。今回は、食の品質保証を支えるCO・OPの優れた品質検査の取り組みをご紹介しました。食の品質検査にかぎらず、ものづくりの製品の品質検査も日々進化しています。
さまざまな業界の優れた取り組みが、みなさまの業務のヒントになれば、うれしい限りです。
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