(2011年7月1日) 品質管理研究所
QC7つ道具のひとつでもある「チェックシート」は、
製造現場で欠かすことのできない確認ツールです。
チェックシートを活用することで、
確認すべき項目をもれなくチェックし、
より簡便で効率的に判定をすることが可能になります。
しかし、多くの製造現場では、チェックシートの内容や
チェックシートの運用方法に不備が見られ、
十分に活用してきれていない場合がよくみうけられます。
今回は、チェックシートを上手く活用するために
どのような点に注意すればよいか、ご紹介します。
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(1)チェックシートの役割
(2)チェック項目とは?
@定性的チェック
A定量的チェック
(3)チェックシートの課題
@チェックシートの記録用紙化
Aチェックシートの合否判定基準もれ
B記入のばらつき
C合否判定忘れ
Dチェックのタイミングは妥当?
➅現物のチェックも忘れずに!
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(1)チェックシートの役割
チェックシートは、重要なチェック項目を作業者の力量によらず、
効率かつ簡易に、もれなくチェックする目的で作成されます。
製造現場で活用されるチェックシートには、
・工程パトロールチェックシート
・安全パトロールチェックシート
・設備点検チェックシート
・5S点検チェックシート
・温湿度チェックシート
など、さまざまな管理項目に適用されています。
チェックシートは、このような生産工程、安全、設備、5S、環境などで、
現場でチェックしたい項目をきちんと理解している現場にいる人材が、
意見を出し合って、作成することがかかせません。
また、チェックシートをつくるプロセスで、
・チェック対象となる製造工程や設備上の問題点
・問題となる予兆ポイントや未然予防策
を事前に洗い出し、
チェックシート作成を通じて、仲間で情報を共有し、
チェックシートとして見える化することに、大きな意義があるのではないでしょうか。
(2)チェック項目とは?
@定性的チェック
一般的なチェックシートは、
言葉による質問項目(定性的チェック)で
「安全センサーを起動(ON)したか?」
「除電器を機動(ON)したか?」
「設備から異音はしないか?」
などというような、YESやNoで判定される確認項目になります。
新人作業者がみてもすぐにわかるような分かりやすい質問表現で
簡易に記述することが大切ですね。
A定量的チェック
温湿度計、流量計などのセンサーを通じて、
定量的に数値でチェックできる項目(定量的チェック)もまた
大切なチェック対象です。
「管理項目 温度 判定基準 20.0℃±5.0℃ 測定値 22.0℃ 」
「管理項目 湿度 判定基準 50%±30% 測定値 55% 」
「管理項目 圧力 判定基準 0.2Mpa±0.05Mpa 測定値 0.21Mpa」
特に数値でチェックが可能で、品質上重要な管理項目は、
できる限り、数値で記録を残し、客観的な基準に基づき管理することが大切ですね。
チェックシートは、合格か不合格かを単に判定すればよいというものではなく、
日々の数値の変動(傾向性)を確認し、流動性管理や予防保全を行う役割も担っていることから、
YES、NOで判定できる定性的なチェック項目にもまして、
測定データに基づいて、数値による傾向管理をしていくことがかかせませんね。
数値を管理することは、その管理基準を明確にする必要性も伴います。
つまり、判定基準そのものの妥当性を検証し、品質問題が起きない基準を
確認する中で、より安定した製造プロセスに育てあげることにつながります。
(3)チェックシートの課題
チェックシートは、汎用性が高く、製造現場で重宝されるQC7つ道具のひとつですが、
さらに効果的に使うためのポイントについて、ご紹介します。
@チェックシートの記録用紙化
チェックシートへの記録が、日々の日常作業として慣れてしまうと、
チェックの意識が薄れて、記録をとることが、主目的となり、
その記録としてとられた測定データが、製品品質にどういう影響を与えるかを
判断、判定する意識が希薄になり、チェックシートが形骸化していく場合があります。
この現象は、国内外の製造メーカーさんに関係なく共通で発生している課題で、
下記2つのパターンにあてはまらないように、特に注意したいところですね。
1)記録の目的化
判定基準を外れた数値が記載されているにもかかわらず、
現場で何も改善アクションがおこされていない。
2)チェックの形骸化
点検チェックシートにレ点で、合格のチェックがされているものの、
現場を確認すると、適切な状態になっておらず、
レ点をつけることが目的化して、流れ作業となり、
本来の目的である現物確認が十分されていない。
同一の生産品を大量連続生産するような工場の場合、
人材の流動性が高く、適切な教育が十分なされておらず、
チェックの必要性やチェック項目にいれている背景が十分に
理解されていないまま、現場で運用されて、
品質不良として、問題が明らかになります。
Aチェックシートの合否判定基準もれ
チェックシートの目的は、記録ではなく、判定です。
定量的チェックの場合、各測定データの合否判定基準を
チェックシートに盛り込むことが必要です。
実際の製造現場では、合否判定基準がチェックシートから
抜け落ちている場合がよくありますので、
まずは、チェックのためにきちんと公差(合格範囲)が、
明記されているか確認しましょう。
悪い例) 「湿度 55% 」
良い例) 「湿度 55% 判定基準50%±30%」
また、長さの単位「インチ」と「センチ」では、全く違うように、
測定単位が違えば、値の大きさもかわりますので、
単位もチェックシートに忘れずに記載しましょう。
B記入のばらつき
合否判定のためには、数値を記入しますが、
数字の「1」と「7」、「6」と「8」は、
書き方が、乱雑で、読みにくい場合、混同してしまいますので
第三者が少なくとも読める字で記入しておく事が必要ですね。
記録が、目的となっている場合、ほとんど字が読めないほどに
荒れている場合が多く、そんな傾向が見られたときは、要注意です。
また、測定数値を記入する場合、小数点の桁数を何位まで
明確にする必要があるのかをあらかじめ確認しておくことも必要です。
チェックシートで、記載する少数点の桁数をそろえるために、
判定基準には、小数点の桁数を適切に表記するとともに、
測定値を記入する空欄には、数値の桁数と小数点をあらかじめ点線でくぎり、
記入桁数を暗示しておくこともおすすめですね。
C合否判定忘れ
チェックシートは、記録ではなく、
点検作業やその点検結果の判定が重要ですので、
各作業や全体のチェックに対する合否の判定は、かかせません。
しかしながら、現実には、合否判定がなされておらず、
チェックの結果、問題が生じていても、
何もアクションが取られない場合も多くあります。
では、どのように対処すればよいでしょうか。
チェックシートを通じて、合否判定を確実に行うためには、
チェックシートの運用方法を現場の確認者に指導することはもちろん、
チェックシートのフォーマットに下記の項目をいれておくのがおすすめです。
1)だれが責任をもって、点検したかがわかるように確認者の名前の記入欄を設ける。
2)確認項目が、すべて問題ない場合の合否判定欄を設けておく。
3)定期的に管理責任者が、管理、運用状況をチェックする承認欄を設ける。
海外の生産工場では、製造現場のペーパーレス化を進めて、
パソコン上でのチェックと記録管理を積極的に進めている企業も一部あり、
社内イントラネットで共有管理することで、いつでも、
管理責任者が、管理状況をチェックし、数値の判定では、
合否判定を自動的に行っている場合もあります。
例えば、PCを現場で使用し、
数値判定基準欄、実測データ欄、合否判定欄を設けたExcelの専用シートに数値を入力し、
基準範囲内か、範囲外であるかを自動で判定して、
「合格」、「不合格」を表示させることで、
人の判断を補助する役割をもたせることも可能です。
さらに、識別しやすいように、
「合格」は、青色表示で、「不合格」は、赤色表示するように
セルの書式設定を条件付書式として、文字色を自動的に変更することもできます。
現在、日本を含め、多くの工場で、チェックシートは、
紙ベースで作成・運用されていますが、
チェックの確実性と効率性を追及した新たな点検方法も、
今後、進化させていく必要があるでしょう。
Dチェックのタイミングは妥当?
チェックシートは、チェックする内容に加え、
適切なタイミングで実施することがポイントです。
始業時、休憩開始時、就業時、シフト交代時、不良停止後の再開時、連休明け時など
どんなタイミングで実施すれば、問題を未然に防げるかを考え、
チェック頻度に応じたチェックシートの書式を設定することが重要です。
立ち上げたばかりの工程では、特にチェックのタイミングが不明確な場合が
多く、成り行き任せになりがちなので注意しましょう。
➅現物のチェックも忘れずに!
チェックシートを活用して、設備設定値の実測値(定量値)を確認する場合、
チェックシートに判定基準の範囲を明示することは必要ですが、
さらに現物でも容易にチェックできるように、
下記のように現物でも対応しておくことがおすすめです。
1)測定メーターの合格基準範囲に色のついたテープで明示する。
例)圧力メーターの下限値と上限値の範囲限界に色の付いたラベルをつける。
2)測定モニターの合格基準範囲の数値を、テプラー等で記載し、貼り付けて明示する。
例)デジタル表示される設備温度や流量など、範囲がわかる数値ラベルをつける。
チェックは、定期的に頻度をきめて確認するものですが、
実際には、現場で不良問題が発生した時にすぐに、確認できるように
その場でチェックできるような体制をつくることが必要ですね。
チェックシートに基準範囲の記載があるからといって、
設備そのものに対する管理基準の明示がなくてよいわけではありませんので
チェックシートの運用開始時には、現物に対する表記もあわせて確認しておきましょう。
今回は、「チェックシートの落とし穴」について紹介しましたが、
チェックシートは、簡便に、一定項目をもれなく素早くチェックするために
たいへん役に立つQC7つ道具です。
道具は、使い方次第ですので、
チェックシートをうまく活用して、品質管理にぜひ役立てみてください!
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