今日、一日の中で、新たな気づきがあったでしょうか。
今回は、品質改善のためにもかかすことのできない
『気づき』について、考えてみましょう。

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(1)「気づき」とは何か?
(2)気づきと問題意識
(3)気づきと比較
(4)五感で気づく
(5)製造現場の気づき『3ム』
(6)組織の気づき
(7)見えないことへの気づき
(8)しくみで生みだす気づき
(9)他分野からの気づき
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(1)「気づき」とは何か?
「気づき “Awareness”」とは、問題や課題を発見し、成長する原動力です。
ものづくりの現場では、製造工程の変化に気づき、
市場での問題を未然に防ぐために
日常的に工程パトロールを実施して、品質の維持向上に励んでいます。
『気づき』には、ひとによる感度の違いがあります。
ちいさな出来事から、あたらしいことに、気づけるひともいれば、
大きな出来事であっても、なにも、気づけないひともいます。
そして、あたかも、相手がみずから気づいたかのように、
相手に気づかせることが上手なひと(優れたリーダー)もいます。
ある出来事に遭遇しても、ひとの感じ方は、千差万別です。
このような気づきのばらつきは、品質問題の把握と改善に影響する大切なポイントです。
(2)気づきと問題意識
日本の学校では、問題のとき方をたくさん習いますが、
問題が何かをみつける「気づき」の訓練は、あまりしていないのではないでしょうか。

世の中の仕事の多くは、与えられた問題をいかに解くかということよりも、
まず、なにが、問題であるかを自らで見つけることが求められます。
見誤った問題をといて、その問題の正しい答えを出しても、
本質的な問題の解決にはなりません。
何が正しい問題であるかということにいかに気づくかが、
仕事で発生する問題解決において、非常に大切なことです。
さらに、学校のテストの時のように
問題をひとりでとけない場合でも困ることはすくないでしょう。
三現主義で、現場で現物をみて現実を把握して、
問題をとく力のある仲間をまきこみながら考え抜けば、
問題を解決していくことができます。
仲間は、会社の同僚や他部門など、会社の中にいるかもしれませんし、
会社の外の取引先さんやお客さんかもしれません。
学校のルールと社会のルールの違いに気づくことは、世の中の問題を解く上で大切なことです。
(3)気づきと比較
気づきは、さまざまなものをみて、興味をもち、比較することからうまれることが多いものです。
無意識に下記の3つの経験・知恵・知識と比較をおこなっているのではないでしょうか。
@自分が過去体験した経験との比較
A先人や仲間や組織の知恵との比較
B書籍などから得られる知識との比較
ただし、経験や知識や知恵がなければ、気づきがえられないかといえば、もちろん違います。
初めての経験であっても、活用できる気づきの視点を以下にご紹介します。
@自然に学ぶ
自然に存在し、モノを構成する分子構造といった秩序だった並びや規則性、自然の重力など、
普遍的な自然界の法則と比べて、違和感がある問題は、気づくきっかけとなります。
日頃から、自然に親しみ、肌で感じていれば、
人間が作り出したものに対しても、たくさんの気づきを与えてくれるでしょう。
自然界の氷の美しい結晶が、規則性や秩序をもっているように、
工場の製造現場でも、規則や秩序といった一定のルールの中で美しい状態が保たれています。

自然界の法則は、ものづくりの気づきにつながる要素を含んでおり、
私たちをかげながら応援してくれる「ものづくりの先生」といえるのではないでしょうか。
A優れたものに学ぶ
長年、歴史の中ではぐくまれてきた建築物や技法など、
美しく存在し続けているような品質の高い構造や手法を頻繁にみていると、
工場に潜む問題の対象を目の前にしたとき、違和感を覚えることでしょう。
工場ばかりで気をはりつめるのではなく、休日、リラックスしながら、
美術館や伝統工芸、海外の建築物などにふれ、
品質・品位の高いものから、刺激をうけていれば、
優れたものとの違いから、問題に対する気づきがうまれるでしょう。
B新しいものに学ぶ
新人さんが企業に入社すると、いままでとは全く異なる環境で、さまざまな気づきがあります。
長年はたらいていて、現状の姿が当たり前のようになっている社員さんには、
なにひとつかわらない日常の現場でも、新人さんにとっては、大きな変化と気づきの場となります。
何も知らない新人さんの強みは、先入観なく、
ありのままに、現状を見ることができる力をもっていることです。
経験や知識がないからこそ、ありのままに感じた気づきを現場に与え、
刺激と変化をもたらすことができます。
組織には、そのような新しいものを大切にして、
新人さんが意見を自由にいえるような環境、そのことばを真摯にうけとめ、
素直に学び、常に変わろうとする姿勢をもち続けたいものです。
また、自社の工場ではたらくメンバーに気づきをあたえるために、
管理がしっかりした取引先さんや好意のあるお客さんの工場を訪問させていただき、
工場での管理方法を肌で感じ取り、気づきをあたえる機会をつくることも大切なことです。
日本の中小企業の中では、ものづくりの地域の団体の持ち回りで、
現場の工場へ訪問して、お互いの工場をみて、
良いところや悪いところなどを見て刺激しあうような活動を実施している場合もあります。
中国では、人材を企業間で一定期間トレードして、交流するような取り組みを積極的に行ない、
技術や品質にとどまらず、良好な関係を構築するなど、さまざまな工夫がされています。
(4)五感で気づく
気づきは、人間の五感で感じて、心が動き、考えることから、うまれます。
工場の製造現場を歩いて、五感をはたらかせれば、
さまざまな変化に気づくことでしょう。
<五感>
聴覚−機械から聞こえてくるガタガタという異音
嗅覚−オイルがもれたような独特のにおい
触覚−手のひらに付くほどのほこりがのった機械
視覚−雨漏りする恐れのある天井からもれる外の光
味覚−食品のわずかな味の違い
優れた工場では、このような工場でのわずかな変化に対して、
だれもが気がづけるように、異音やにおいをはじめとする問題点を
設備の日常点検チェックシートや工程パトロールのチェック項目におとしこんでいます。
作業者や工程パトロール者のチェックの力量によらず、
もれなくチェックすることができるように気づきのポイントを
仕組みとして、確認できるように運用する仕組みづくりも大切です。
そして、五感をはたらかして、問題に気づくだけでも十分ではありません。
その後にしなければならないことは、改善のアクションです。
気づいても何もしなければ、品質改善にはつながりません。
問題に気づき、次の行動をとって、問題を改善したことを最後まで、
フォローアップしていくことも、欠かせないことです。
現場のリーダーは、作業者が取り組んだ改善を自分の目で確認し、
不足していることがあれば、サポートすることも大切な役割のひとつです。
(5)製造現場の気づき 『3ム』
製造現場では、むり、むだ、むらの『3ム』に着眼すれば、気づきも多くなります。
むりをして、しごとに疲れたり、むだな作業で、余計な手間がかかったり、
むらがあり、見た目が美しくない状態が、現場にあふれていないでしょうか。
このような「むり、むだ、むら」の3ムは、品質改善の種となります。
逆に、3ムがない状態は、現場での理想的な状態になりますので、
下記のように比較して、考えるとわかりやすいでしょう。
@むりせず、らくに、
Aむだなく、効率的に、
Bむらなく、美しく
私たちは、日頃の生活で、このような感覚的によいと感じ取れることは、
製造現場でも、よい改善取り組みとなる場合が多いものです。

(6)組織の気づき自らで気づきをふやすだけでなく、
組織としての気づきをどのように増やしていけばよいでしょうか。
自分では、きづいていても、周りにはきづかれていないことを、
同じ失敗を繰り返さないために、
組織の知識・知恵として、タイムリーに反映できているでしょうか。

製造現場で、気づかせることが上手なひとは、質問が上手なひとです。
自分が知っていることであっても、
あえて、現場のメンバーに声をかけ、聞くことを大切にしています。
優れたひとは、あえて、自分で答えをだすことをさけて、
相手に質問をして、答えを考えてもらう中で、大切な「気づき」を共有しています。
質問された仲間は、自らの問題として、
なぜ、そうなるのか?なぜ?なぜ?という原因追究の中で、
疑問が、興味にかわり、さまざまなことに気づいてくれるでしょう。
組織での気づきを増やすためには、会社の経営状況や、
自分が企業の会社の中でどのような役割を果たしているのかということを
しっかりと理解してもらうことが大切です。
現場の作業者に気づく力を醸成する前提として、
どれだけ会社の大切な情報を共有して、一丸となって取り組めているでしょうか。
気づくことの重要性を伝える前に、
きちんと伝えるべきことが現場に伝えられているかを確認することもわすれてはなりません。
(7)見えないことへの気づき
現場の製品の不良など、問題は、見えているものばかりではありません。
見えていない問題を見つけ、みんなに気づかせることも大切です。
現場で見えていない組織の仕組みの問題、生産歩留りや工程別の不良率など、
見ようとしなければ、見えない問題を現場で「見える化」することができているでしょうか。
目に見えていない問題を見ようとする力、問題を顕在化する努力は、
将来おこる潜在的な大きな問題を予測し、先手、先手で解決する大きな仕事につながります。
現場の作業者さん、現場のリーダー、管理職、経営者と求められる責任が大きくなるにつれて
現場の見えない問題に対して、より大きな責任と自覚を持つことが求められます。
(8)しくみで生みだす気づき
現場にはさまざまな問題があります。
気づいた問題に対して、改善を行なうことが成長につながります。
小さな気づきからうまれた改善を吸い上げる仕組みとして、
「改善提案制度」を実施している企業が多くあります。
部門ごとに改善目標数を設定して競争したり、
改善件数で表彰したり、社長が参加する発表会をもうけたり、
表彰金を与えるなど社員のやる気を高める工夫をしている会社もあります。
改善による効果はもちろんのこと、
現場の問題点を常日頃から考える習慣をみにつけることに大きなメリットがあるといえるでしょう。
(9)他分野からの気づき
他分野での取り組みから、気づきのヒントが得られます。
@店頭販売での気づき
製品を販売する上では、店頭に製品をならべて、
よい商品であることを気づかせる展示や広告などさまざまな工夫がされています。
製造現場では、現場での製品の品質問題や機械のトラブルなど、
現場ですぐに気づけるように、どのような工夫がされているでしょうか。

A飲食店のサービス
飲食店では、良いサービスを行なうために、店員さんが、お茶や冷水の補充、
お食事の追加注文、お勘定など、お客様の動作や視線に注目して、
すぐに反応できるように常にホール全体に注意をはらっています。
ものづくりの製造現場では、現場全体へだれが、このような配慮をこない、
ワーカーさんのお困りごとや製品の異常発生や傾向的な不良に気がつくことができているでしょうか。
生産工程を管轄する工程リーダーやライン長などが中心となって、
ワーカーが仕事をしやすく、品質問題を防止する気づきの体制が構築されているでしょうか。
他の分野では、日頃サービスを受ける立場で、当たり前におこなわれていることが、
自社の製造現場で当たり前のようにできているかを確認すると
おもわぬ気づきがえられるのではないでしょうか。
以上、今回は、品質改善につながる「気づき」についてご紹介しました。
気づく力のあるひとは、おもいやりをもって接することができる人が多いように感じます。
ひとも製品も、おもいやりのあるひとのいる環境ではぐくまれれば、
気づき力の高い人材が育ち、品質の高い製品がうみだされるのではないでしょうか。
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想像力とは、もちろん、空想ではなく、様々な観点から予想される不具合を考えることに他ならないのですが、上記の災害に限らず、そういうことが欠如しているとのこと。
気づき、というのも、そういうものかもしれません。品質問題を起こしたら、どれだけ大変なことかを考えると、多少杞憂に過ぎても(そこの兼ね合いも難しいですが)、ありとあらゆることを考える必要があるのですが、そういうことも気付きにつながると思います。
問題に対して、その発生時の影響の大きさをきちんと理解して、考えを深めると、より多くの気づきがえられますね。
だれかに教えてもらうような知識に満足することなく、自分のあたまで考えぬくこと、想定をひろげることが重要ですね。
柳田さんのお言葉にもあるように、「専門家の想像力の欠如」をおぎなうために、実践経験による知見もふまえ、「組織の具体的な行動」にもいかしていきたいものです。
かおる