(2012年11月12日)品質管理研究所
今回は、海外で普及している品質改善手法(経営改革手法)である
『シックスシグマ』について考えてみましょう。
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<シックスシグマ>
(1)シックスシグマとは?
(2)シックスシグマの歴史
(3)シックスシグマの意味とは?
(4)トップダウンの改善手法
(5)改善の枠組みDMAIC
(6)プロセス思考による改善
(7)改善手法の導入展開
(8)改善活動のブランディング
(9)シックスシグマ推進者の証
(10)シックスシグマの実務について
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(1)シックスシグマとは?
シックスシグマは、米国のモトローラ(Motorola)社が、1980年代、日本の品質改善の考え方を研究して、企業風土にあった形で実践したトップダウン型の品質改善手法(経営改革手法)です。
シックスシグマでは、経営上の問題をDMAICという改善ステップを活用して、企業のひとつの仕組みとして、改善を図れるように高めている点が魅力のひとつといえるでしょう。
改善対象は、単に製造業の製品品質にとどまらず、サービスの品質、仕事の品質、さらに経営の品質など幅広い問題や課題が対象となります。企業のボトムアップによる部門別の改善活動では、解決しないような部門横断的な問題に対しても、経営者自らの意志で、改善を推し進めることができる点も魅力でしょう。

シックスシグマということばからは、難しい統計をイメージしてしまいがちですが、もちろん本質は、統計という手段を活用することではありません。
シックスシグマの仕組みを導入せずとも、企業経営上抱える問題に対して、経営者がどのように組織に活力を与え、経営を改善していくか、その改善思考をシックスシグマから学び取ることが、実務上、参考になるのではないでしょうか。
(2)シックスシグマの歴史
1980年代に、米国のモトローラ社からはじまったシックスシグマの改善活動は、発明家トーマス・アルバ・エジソンが創設した米国のグローバル企業GE(General Electric)社で、当時のGE会長ジャックウェルチ氏が1990年代に全社導入を図り、その効果を公表したことで、多くの企業に広がったといわれています。その後、東芝やSONYなどの日本の大手グローバル企業でも導入され、今では、世界中で知られる改善手法のひとつになっています。
2011年には、ISOの国際規格として、ISO13053 Six Sigma(シックスシグマ)のプロセス改善の定量的手法として、発行されている点も、注目すべきことです。
・ISO 13053:2011, Quantitative methods in process improvement – Six Sigma,
Part 1: DMAIC methodology Part 2: Tools and techniques
※ISO publishes Six Sigma performance-improvement methodology ISO HPより
シックスシグマは、現在もなお、進化を遂げて、リーンシックスシグマなどさまざまな形で企業に広がっていますが、シックスシグマを取り入れたからといって、もちろん全てがうまくいくわけではありません。
GEもまた、シックスシグマを導入する前に、現場に耳を傾ける経営として、ワークアウトと呼ばれる改善活動などが実施されており、改善の種をもって試行錯誤していたこと、当時のGE経営者のジャックウェル氏の経営手腕が発揮されているなど、多くの成功要因にささえられて、効果のある活動になったと考えることができるでしょう。
(3)シックスシグマの意味とは?
シックスシグマという言葉は、統計の数値のばらつきをあらわす標準偏差σ(シグマ)の6(シックス)倍を意味しています。お客さんから要求された品質基準に対して、実際の測定値が6σにおさまれば、基準の範囲から外れて、問題となる確率は、限りなくゼロに近いことになります。
管理する品質特性が、正規分布に従うとき、シックスシグマで表明される欠陥率は、3.4/1,000,000 :3.4ppmの精度となります。すなわち、品質上のばらつきが、シックスシグマの基準外となるような極めてばらつきのすくない状態に管理できれば、問題発生の可能性は極めて低くなることが理解できます。このように、シックスシグマという言葉は、高い品質を追求する共通の改革スローガンとして、大切な役割を果たしているといえるでしょう。

(4)トップダウンの改善手法
日本流の品質改善活動では、QCサークルとよばれる小集団改善活動で、現場の社員がチームを作り、ボトムアップでPDCAの改善をはかり、定期的な発表会を開催するなど、品質改善を全社的な活動に高めている企業が多いでしょう。
いっぽう、米国流のシックスシグマの活動は、経営トップが中心となって、部門横断的なプロジェクトリーダーを明確にして、現状の大きな問題に対して、DMAICで改善を促すトップダウン型の活動といえます。
日本の農耕文化に対応したボトムアップ思考に対して、海外の狩猟文化のトップダウン思考ととらえることもできるかもしれません。どちらが優れているということは一概にいえませんが、企業の考え方、企業がおかれている環境、企業の組織規模などにあわせて、その考え方を理解して、経営改革、コストダウン、ムダ削減などに企業改革の手段として、うまく活用することが求められます。
(5)改善の枠組みDMAIC
シックスシグマの改善サイクルは、『DMAIC』の5段階サイクル :Define (問題の定義)/Measure(測定)/Analyze(分析)/Improve(改善)/Control(管理)からなっています。日頃の業務にも活用できる問題解決の優れた改善のフレームワークといえるでしょう。
まず、仕事の問題を見つけて、プロジェクトを定義(Define)することからスタートします。次に、問題を数値として測定(Measure)して、その問題をひきおこすプロセスを把握して、問題の原因を分析(Analyze)していきます。そして、問題を引き起こすさまざまな要因を整理し、改善(Improve)を実施し、効果を確認します。効果があれば、その改善策を定着させるように管理(Control)していく、問題解決、再発防止の自然な流れです。
このようなシックスシグマの改善サイクルは、ものづくりの現場に適用されるだけでなく、ビジネス部門にも適用され、仕事品質を改善する思考プロセスとして、大いに役に立ちます。また、ものづくり業界のみならず、さまざまな産業分野で、問題を解決する改善プロセスとして、活用されているのも納得できるでしょう。
(6)プロセス思考による改善
シックスシグマでは、問題を単なる個々の結果ではなく、全体のばらつきに注目して捉える視点があります。ばらつきを理解するためには、問題を発生させるプロセスそのものに焦点をあてることが必要になります。問題のあるプロセスそのものを改善することで、改善効果の持続性がある本質的な改善に結びつくといえます。
例えば、お腹のすいた人がいるとき、どのような問題解決ができるでしょうか。

川でとった魚をあげて、その場の空腹を満たせば、問題は解決するでしょうか。
根本的な解決のためには、魚のとり方そのものを教えて、みずからが、魚をつって、自立できるように支援するようなやり方がもとめられるのではないでしょうか。
結果だけに注目すると、その効果は、限定的ですが、プロセスを理解して対応すれば、問題解決は異なる方法で、持続的な効果をもたらすでしょう。
(7)改善手法の導入展開
シックスシグマの導入展開から、さまざまなことが学べます。私たちが、自社企業で新たな品質改善活動を展開する上でも、参考になるものです。
モトローラ社では、単に、成功している日本的な品質管理手法を真似するのではなく、よい考え方を吸収して、独自の品質管理活動として、シックスシグマの活動に高めているところに成功のポイントが隠れているのではないでしょうか。
成功の形は、ひとつではありません。他国や他社で成功していることをそのままコピーするのではなく、よりよい形で自社の改善活動に落とし込む考え方は、品質改善や経営改革を進める上で、理解しておきたい大切なポイントの一つです。トヨタのJIT(ジャストインタイム)などをそのまま真似しようとしてもできないのと同じで、うまく自社に適合する形で、その手法だけでなく、その背景にある考え方を取り込むことが何より大切です。
(8)改善活動のブランディング
シックスシグマという言葉は、たいへんインパクトの強いことばです。100万回のうち、欠陥は3.4回ほどという高いレベルは、私たちの仕事のあり方そのものを見直すきっかけとなります。今や製品の品質管理において、PPMで百万分の1の単位で管理すること当然かもしれませんが、私たちが行う日頃の業務(仕事の品質)でも、そんな高い意識で果たして取り組めているでしょうか。シックスシグマは、そんな気持ちにさせてくれるフレーズです。
シックスシグマのような改革を行う上では、『シックスシグマ』にあてはまるような自社独自のスローガン(社内用語/キーフレーズ)を作り、ブランディングすることは、継続させた取り組みとして、社内に根付かせるためにも大切なことです。
日本の多くの企業でも、TPM活動に独自の名前をつけて、社内外の認知度を高めて、組織的な改善活動に高めているのも納得できます。
(9)シックスシグマ推進者の証
シックスシグマでは、日本の柔道の帯を参考に、ブラックベルト、グリーンベルト、イエローベルトなどの色で、各業務推進者のレベルを明確にして、権威づけている点も、運営上の大切なポイントといえるでしょう。グローバル企業の社員さんと対話すると、前職でシックスシグマのブラックベルトでした、と話題になることもあります。
改善の推進者自身が、シックスシグマのブラックベルトに対して、ステータスを感じて責任をもって取り組めているように、前向きに改善活動に取り組める環境やその役割を周囲へ認知するための取り組みもやる気をおこさせるための仕掛けとして大切ではないでしょうか。

現在、シックスシグマは、日本でもパッケージング化された解決手法として、民間資格のような形のセミナーも実施されていますが、シックスシグマという手法や形式にとらわれず、背景にある良い問題解決の考え方を吸収して活用していきたいものです。
(10)シックスシグマの実務について
シックスシグマのさらに詳細なポイントについて紹介されているHPや書籍、セミナーもたくさんありますので、新たな企業の改善活動として検討される場合は、ぜひ、ご参考にどうぞ。
【参考文献】
・シックスシグマとは、何か? 株式会社グローバルテクノ
・シックスシグマ物語 株式会社ジェネラル・サービシーズ 佐藤増雄さん
・シックスシグマ IT情報マネジメント
・GEとシックスシグマについて EXECUTIVE MATTER 2002年2月号 No4
・進化するシックスシグマの歴史 株式会社ジェネックスパートナーズ
【シックスシグマの参考書籍】
以上、今回は、シックスシグマについて、ご紹介しました。
みなさまの企業の経営品質の改善のヒントになれば幸いです。
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