(2012年11月2日)品質管理研究所
ものづくりで使用する部材の品質を確保するためには、
部材をつくるサプライヤーさんの工程そのものにも焦点をあてて、
高い品質をうみだせる状態で維持・管理することが求められます。
取引開始前には、現地の工場に足を運び、工場監査を実施します。
過去の失敗経験をふまえつつ、製造現場を確認し、
問題を未然に防ぐ取り組みを実施している企業も多いでしょう。
製造工程の現場監査では、
現場の管理責任者と顔をあわしながら、
製品の製造プロセスの問題点を確認していきます。
このような現場の確認をより効果的に行うために、
みなさんは、どのような工場監査のツールを持っていかれているでしょうか。
今回は、工場監査の現場確認で役立つ『工場監査7つ道具』をご紹介します。
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<工場監査7つ道具>
1)デジタルカメラ 〜百聞は一見にしかず、改善の共有
2)QC工程図 〜現場監査の道案内
3)製品仕様書 〜製品と管理プロセスの一致が大切
4)納入品質情報 〜不良を防ぐ未然予防情報
5)クリップボード 〜どこでも机に!監査のおとも
6)腕時計 〜時間は本質を語りだす
7)紙とボールペン 〜チェックに!記録に!
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(1)デジタルカメラ 〜百聞は一見にしかず、改善の共有
工場の製造現場での問題点をしっかりと記録にのこすために、デジタルカメラは必須です。
@製造現場を写真でおさめる目的とは?
デジタルカメラでの撮影の目的は、問題点を写真で残し、改善に活用することです。
もちろん、問題がない場合は、製造工程がきちんと品質管理できていることを
写真として残して、監査の報告エビデンスとして、活用することもあります。
どんな目的で、カメラで撮影したいかを事前に説明して、
サプライヤーさんに納得いただいておくことも大切ですね。
Aどのように改善に活用すれば効果的か?
製造現場では、現場の問題点を中心に撮影していきます。
工場監査の締めくくりのまとめのタイミングに、
現場で撮影した改善が必要な写真を、プロジェクターをつかいスクリーンに映し出して、
みなでひとつずつ確認していくことは、大変インパクトがあり、おすすめの方法です。
言葉の壁のある海外でも、たいへん効果的です。
製造現場でも、すぐ問題点は指摘しますが、工場では音が大きく、声が聞こえにくい場合、
現場のスペースが限られており、多くの社員さんには伝えることが難しい場合など、
サプライヤーさんの中での監査の指摘事項の共有と次への改善アクションのためにも
写真で実態をわかりやすく残し、改善に活用することがおすすめです。
工場監査で時間に余裕があれば、
その写真を見ながら、議論するのもよいでしょう。
次々と改善内容と担当責任者と改善期日を明確にして、
ずばずばと道筋をつけて改善を推進される優秀な経営者さんもいます。
このような写真での改善前の写真をもとに、
後日、製造現場での指摘事項の改善後の写真をサプライヤーさんに撮影いただき、
どのように改善したのかをBefore&Afterで、写真入りで、報告してもらいましょう。
B製造現場には、秘密がいっぱい?
生産工程では、企業独自のノウハウがつまった特殊な工程がある場合など、
デジタルカメラの持ち込みや撮影については、事前の承諾が必要な場合も多いでしょう。
もちろん、取引先さんのシビアな情報を外部に公開したり、もらさないのは、
社会人として、当然のお約束事ですが、
念のため、秘密保持契約書のサインなどが必要な場合もあります。

このような管理が厳しい工場さんでは、デジカメで撮影させていただくためには、
できれば、監査日ではなく、事前の打ち合わせの段階で、
もし、製造工程で問題点がもしあれば、
現場を撮影させていただき、問題を共有して改善することを理解いただき、
サプライヤーさんの管理責任者の了解を頂いておくことがポイントです。
もちろん、すぐに納得いただけない場合は、
監査当日に事業責任者と直接お話して、
了解いただけるように交渉することもできるでしょう。
百聞は一見にしかず、言葉で説明するより、写真で見てもらえば、
現場にいなかった事業責任者にもその問題を客観的に理解してもらうことができます。
カメラで現場を写真で押さえるメリットをきちんと伝えられるかがポイントですね。
C製造工程の写真撮影が難しい場合の対処方法とは?
製造工程内での外部の監査員が写真を撮影することが許されない場合は、
監査先の方に写真を取っていただき、後で可能な写真だけを頂くこともできます。
監査員のデジカメの持込みが許可されないような場合は
監査先のサプライヤーさんにカメラをご準備いただき、
監査員が指摘したポイントをすべて撮影していただき、写真を頂くこともできます。
外部にはだせない工程だけ写真がNGであれば、自分のカメラで撮影して、
後ですべての写真を確認していただき、
公開できない写真のみを削除してもらうこともできるでしょう。
写真をとる目的をきちんと説明し、守秘義務をまもり、
その大切な写真の活用方法を説明すれば、
品質を高める前向きな工場監査として受け入れられる場合がほとんどではないでしょうか。
Dどんなデジタルカメラがおすすめ?
デジタルカメラは、どのようなモノを用意しておくとよいでしょうか。
最近のデジカメは、価格も安いうえに、カメラの性能も飛躍的に向上しているので、
どれを買っても大きな問題はありませんが、
できることなら、下記のポイントをおさえておきたいものです。
・製造工程中で撮影するため、手振れ補正機能がしっかりしていること、
・小さなものを拡大して撮影できるマクロ機能があり、ピントがあいやすいこと、
・小型で持ち運びやすく、できれば、あやまって落としても壊れにくいこと、
・動画もきれいいに撮影でき、保存できるメモリー容量が十分あること、
そして、なにより、長く仕事に使いたいと思える
愛着の持てるデジカメであることが重要ではないでしょうか。
品質部門にいれば、工場監査に限らず、
カメラはいつも持ち歩るく大切なアイテムとなります。
Eデジカメの設定も事前に確認を!
デジタルカメラの設定上、解像度によって撮影できる枚数にも制約がでてきます。
必要以上に、鮮明で解像度を高くした設定にしていると、
保存容量がすぐなくなり、長時間の監査で撮影ができなくなることもありますので、
撮影枚数と画質や写真サイズは、事前にうまく調整しておきましょう。
カメラの準備としては、カメラのバッテリーは、もちろん、
監査前にフル充電をすることも忘れてはいけませんね。
数日間におよぶ海外の監査時には、
デジカメバッテリーの充電器、海外用の専用コンセントなどの付属品もおわすれなく!
F写真を圧縮、監査報告書や改善報告資料に活用!
現場で撮影した解像度の高い画像は、保存容量も大きく、
資料に活用する場合、容量が大きくなると不便ですので、
事前に圧縮することが必要な場合も多いでしょう。
そんなときは、優れたフリーソフト『縮小専用。』を活用するのがおすすめです。
■ ドラック&ドロップの簡単な操作で圧縮できる縮小専用ソフトはこちらをご参考にどうぞ!
・品質業務を効率的にするフリーソフト!『縮小専用。』 (品質管理研究所)
(2)QC工程図 〜現場監査の道案内
@QC工程図の監査での役割とは?
製品をつくる上での工程の設計図ともいえるQC工程図は監査の必須資料です。
工場監査の製造現場確認では、QC工程図が工程を確認していくための『現場の地図』になります。
地図をわすれると、現場確認のもれが発生しやすくなりますので、
QC工程図は、必ずもっていくことをお忘れなく。
AQC工程図の活用方法とは?
QC工程図に記載されている製造工程の受入検査、製造工程、梱包、出荷検査、保管にいたる
一連のものづくりの工程を順番に確認していきましょう。
不良の発生調査など問題点を洗い出す時は、逆の順序からたどることもあるでしょう。
QC工程図には、各工程の作業手順や管理記録などの帳票が紐付けされています。
紐付けされた各現場の手順書が、納入される新規の製品と整合性がとれていて、
品質管理の上で、もれやだぶりがないかを確認していきます。
QC工程図には、管理すべき製品の特性項目や管理・測定方法、異常時の手順など
現場で製品をつくり、品質を保証していくために必要な品質管理方法が網羅されています。
QC工程図に記載があるものの、現場で管理できていない項目がないか、
逆に実務上の管理はしているが、QC工程図からもれている項目がないかも含め、
確認していきましょう。
BQC工程図の事前の準備とは?
工場監査の前までに、製造確認する製品のQC工程図をサプライヤーさんに
あらかじめ作成いただき、事前にチェックして、修正、改善しておくことが求められます。
■ QC工程図のポイントについては、下記の記事をご参考にどうぞ!
・QC工程図について(品質管理研究所)
(3)製品仕様書 〜製品と管理プロセスの一致が大切
@製品仕様書を活用した監査ポイントとは?
監査時には、工程中の製品をみて、傷などが異常かどうかを判定するような場面もでてきます。
実際にその場で確認するためには、製品仕様書が必要になります。
仕様書には、詳細な不良モードや定量的な基準がもりこまれているので、
現場で具体的に確認する必要が生じた場合に、仕様書をもっていれば、
現場の確認もスムーズにできます。
A取引開始時の工場監査に活用
新規の取引開始の際には、最終的に修正・決定した仕様書の基準が、
製造現場にうまくおとしこまれているかを確認することが必要です。
最後まで修正を重ねた改善項目は、品質上影響が大きい場合も多く、
現場まできっちり対応がはかられているかを最新の仕様書をベースに
チェックすることが求められます。
会議室できめて、変更したことがうまく現場につながらず、
基準のズレが発生しないように、仕様書と照らし合わせてしっかり確認しておきましょう。
B仕様書と製造工程の違いはあるか?
製造工程内での管理基準の設定値の妥当性を確認するために、
仕様書にもりこまれた管理数値よりも、厳しい基準の工程管理値を設定し、
ばらつきを考慮して品質管理をしているかをチェックすることも、非常に大切です。
抜取検査している特性などでは、仕様書の基準は満たしても、製造ばらつきにより
未検査の製品が、基準からはずれる可能性があることを認識しているかを確認できるでしょう。
また、最終出荷検査では、所定の出荷検査成績書に記入頂きながらがら、
実務の作業どおりの検査を確認しますが、
最終承認されたフォーマットが使用されているかなど、
仕様書に添付された資料と同じものが現場で活用されているか、
同じものが最新版で管理できているかを確認することも大切です。

まさに、仕様書は、監査時の監査員を支援する「比較基準」といえるでしょう。
基準がなければ、現場での判断にも迷いが生じるため仕様書を現場監査にもっていきましょう。
(4)直近の納入品質情報 〜不良を防ぐ未然予防情報
@品質不良の履歴をリスト化
製造工程をただやみくもにチェックしても、時間がかかるばかりで効率的ではありません。
継続納入されている製品の工場監査であれば、どのような不良が直近に発生し、
サプライヤーさんでどのような改善対応を図っていたか、
監査前に把握する下準備は、日頃からできているでしょうか。
改めて確認すると、一度発生した問題が再発しているなど、問題点が目につくはずです。
特に直近の納入品質情報を把握して、現状の問題、課題点を明らかにして、
要点をリストにまとめ、現場に持っていき、フォローアップすると効果的です。
同業他社で大きな品質問題になった内容も理解して、
自社でも発生させないような取り組みとして、改善を加速させるのがポイントですね。
A内外の品質問題の状況を確認
どんな不良が毎月どれだけ発生しているかという基本的な品質情報は、
納入時の不良だけでなく、サプライヤーさんの製造工程内不良の数値も重要です。
事前にメーカーさんに要望して、工程内不良のデータをまとめて、
報告してもらうこともできるでしょう。
多くの企業では、毎月の品質状況を定例の品質会議で報告しているので
その資料を報告してもらえば、余計な手間をかけずに、問題点を共有した上で、
前向きな改善につながる監査ができるでしょう。
■ 品質不良が発生したときの定量的なデータの集計方法は、こちらをご活用ください。
・品質不良改善シートとは? (品質管理研究所)
・パレート図の作り方とは? (品質管理研究所)
(5)クリップボード 〜どこでも机に!監査のおとも
@いつでもどこでも書けるクリップボード
クリップボードは、QC工程図、仕様書、監査リスト、過去不良概要、メモ紙などをはさみ、
現場で絵や文字を書きながら伝えるための現場の机の役割を果たします。
工場監査に限らず、クリップボードに紙をはさみ持つのがくせになるほど便利です。
工場監査では、改善点や指摘したことを自らで記録しておきます。
クリップボードにはさんだ用紙に指摘ポイントや良い点を忘れないように記載して、
後からフィードバックしておけるように準備しておきましょう。

A伝えるときは、絵心で!
製造現場では、なにかを口だけで説明するよりも、
絵を加えて、伝えると非常に理解がすすみます。
特に海外の工場のように言葉うまく通じないような場合は、
絵を描けば、理解度が、ぐんとあがります。
クリップボードにはさんだ用紙にあなたらしい絵を書いて、現場で伝えましょう。
(6)腕時計 〜時間は本質を語りだす!
@工場監査の時間管理
監査で製造現場を周っていると、あっという間に時間が過ぎるものです。
限られた時間にしか製造できないような製品や工程もあります。
就業時間の関係やシフト休憩などから、作業時間に制約がないか、
あらかじめ、現場の業務時間を事前に確認した上で、監査を行うのがおすすめです。
監査する側、される側ともに工場監査の時間を意識して、
時計をつけて、無理のない工場監査を実施したいものです。

A製造現場の時刻の正しさ
製造現場では、製造現場の時計をみると、時刻に問題がある場合があります。
工場監査に行ったときは、ぜひ、現場の時計と腕時計の時間を見比べてみてください。
時間がずれいたり、時計が止まっていることが、以外に多くあるものです。
時計が止まっている企業の現場には、何かが欠けているのです。
現場をみれば、きっと、その答えは、わかるでしょう。
時計の時間が異なることは、
指摘に値しない小さな問題と思われることもあるでしょう。
しかし、本質的に伝えなければいけないことは、
時間がずれているという目に見える現象見た目ではありません。
問題があるにもかかわらず、なぜ、放置されていたかという管理面の問題です。
このような小さな問題が、企業の管理面のほころびとなって表に表れているのです。
B製造現場の生産性に直結するタクトタイム
製造工程中で、仕掛品が多い工程では、各工程のタクトタイムのバランスが崩れて、
生産数量がうまくコントロールできていないことがすぐわかります。
実際に時計で秒数をはかれば、定量的に説明することもできるでしょう。
また、検査時間が十分に確保されているか、
検査者による検査時間ばらつきが生じていないかなど、
時間の管理ポイントは、目に見えにくいため、意識的に見ることが求められます。
じっと製造現場に立ち止まり、時間を意識して、
製造現場をみると本質的な改善点が見えてくるはずです。
■ ボトルネック工程をみつけて現場改善するフォーマットはこちらをご参考に!
・TOC制約条件の理論とは? (品質管理研究所)
(7)紙とボールペン 〜チェックに!記録に!
@工場監査時の筆記具の役割とは?
紙とボールペンは、工場監査の現場での説明、チェック、記録のための必需品ですね。

A紙とボールペンの事前準備
ボールペンは、当然、十分インクがはいっていること、
予備の2本目のボールペンを用意しておくことは、監査前の準備として必要です。
クリーン度の高い工場では、紙の持ち込みが禁止される場合もあります。
そのような場合は、紙粉やゴミなどがでないクリーン紙などに印刷していただき、
製造現場にもっていくことが必要になる場合もあるでしょう。
製造現場の監査でみずからがゴミの発生源となることのないように、
監査先の現場にはいるときは、注意が必要ですね。
Bチェック項目のリスト化
スーパーのお買い物にきたお客さんのように、買うモノをわすれないように
買い物リストをメモにしたためて、購入している姿は、良く見かけられます。
工場監査でも、決められたポイントを、もれなくチェックするための方法として、
監査に慣れるまでは、監査の確認要点をまとめたチェックリストをつくって、
用紙を持って、製品の管理ポイントをおさえて、監査することがおすすめです。
ベテランの監査員になれば、ほとんどすべてのポイントがあたまにたたき込まれていて、
現場に意識を集中して監査することで、問題のあるポイントに気づくこともできますが、
なれない新規部材などの場合などでは、
事前に課題点や懸念点を整理して、監査にのぞむ準備はかかせまんね。

工場監査の要点をまとめておけば、チェックもれを防止するだけでなく、
監査時の監査員のばらつきを抑えることにもつながり、
監査のノウハウも、組織にどんどん蓄積されていきます。
ひとりの監査員の視点を他の仲間の監査員に伝えて伝承していくこともできるでしょう。
以上、今回は、『工場監査7つ道具』についてご紹介しました。
ほかにも、スケールルーペやドットゲージなど、
工場監査の製造現場に持っていきたいものがあるかもしれません。
工場の製造現場の監査目的に応じた優れたツールを活用して、
より効果的な監査をする上でのヒントなればうれしく思います。
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