(2012年10月5日)品質管理研究所
日本よりも暑くて、湿度の高いアジア諸国の海外ものづくり工場では、
窓をあけて、作業する光景が多く見受けられます。
海外現地工場では、広大な敷地で、エアコンが完備されておらず、
なり行きまかせの温度・湿度管理の工場もあります。
作業場があまりに暑い状態であれば、
作業者の健康や安全が第一優先事項なので、
窓を開けて、風通しを良くして、作業者の体調や作業性を向上させるように
配慮することも考えなければなりません。
あまりに暑いときには、たくさんの社員さんに、
アイスを配る優しい経営者さんもいますが、

暑さを理由に、工場に虫がはいっくることを許して良いわけではありません。
虫が製品に付着して出荷されれば、もちろん大きなクレームとなります。
工程の異物不良として、虫の問題がおさまらない・・・、
製品に虫がはいり、市場のお客様で品質問題になってしまった・・・、
など実務で悩まれたことがある方も多いのではないでしょうか。
ものづくり工場における防虫対策について、
どのような対策を講じることができるのか、具体的に考えてみましょう。
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<防虫対策と品質管理>
(1)虫の侵入経路の遮断
@部屋の間仕切りで区切り
A防虫カーテン
B建物の隙間をうめる
Cガラス窓の修復
D窓へ網戸をつける
E扉の開閉ルール
F換気扇や排気口の防虫ネット
G扉に開閉型の防虫シートシャッターをつける
Hエアーカーテンの設置
(2)虫の付着持込防止
@内部に持ち込むパレットや梱包などに付着した虫の除去
A梱包副資材の管理規則の標準化と徹底
Bクリーン度の改善
(3)虫の誘引防止
@虫が寄ってきにくいライトへの変更・蛍光灯カバーの設置
A紫外線遮断の防虫シート
B虫をひきつけにくい屋外街路灯
(4)虫の発生防止
@工場内外の清掃
A食堂からのゴミの管理
B不要なものは廃棄
(5)虫の駆除
@捕虫器の活用
A殺虫剤の活用
(6)虫対策の改善効果の確認
@昆虫採集と日記
(7)防虫対策の注意事項
@蚊取り線香による火気注意
A蜘蛛の巣による自然の防虫対策はNG
(8)ソフト面の対策
@作業者への教育
A問題の原因と対策を考える学習の機会
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(1)虫の侵入経路の遮断
@部屋の間仕切りで区切り
作業工程や検査・梱包工程に間仕切り(パーテーション)をつけ、よりクリーンな環境へと分離します。特に屋外環境に近い場所で製造せざるをえない場合は、最終検査・梱包工程を分離して、個別の検査・梱包室をつくり、作業環境を改善することが、実務ではよく行われています。
部材受入・製造・検査・梱包工程中の作業性や投資費用、そして、迅速な改善対応という視点から、防虫カーテンをつけるなどの他の対策と合わせて、実施するのがおすすめですね。
■ コマニーさん 工場問題解決HP

A防虫カーテン
飛んでくる虫を遮断するために、防虫カーテンをつけて対策することもできます。部材の荷受場など、大きな扉を開ける場合、必要以上に開放されてしまうため、梱包受入作業中でも、虫が侵入しないように短冊上の防虫カーテンをつけて、作業との両立を図ることもおすすめです。
防虫カーテンの素材は、虫が最もよく見える光(紫外線波長領域の光)をカットするような特殊な素材でできていることで、物理的な遮断だけではなく、光学的な遮断もしていることが虫をシャットアウトするポイントです。
下記の岩崎電気さんのHPでは、ひとと虫の視感度、いわゆる虫が見ることでのできる光の感度がわかりやすく紹介されています。
■ ひとと虫の視感度曲線について 岩崎電気株式会社さん
人の目は、380nm〜780nm(ナノメートル)が可視光領域で、550nm付近の黄緑色に中心がありますが、虫の場合は、360nm付近の紫外線領域に中心感度があることが示されています。この光の感じやすさの違いをうまく活用することが防虫対策のポイントになります。
■ アキレス株式会社 短冊型のドアカーテン
B建物の隙間をうめる
扉の下などに隙間部分がある場合、遮断して、虫の進入経路をなくします。昼間での屋外の光の漏れの確認、夜間での屋外からの内部の光の漏れを確認すれば、問題箇所を容易に発見できます。
特に屋外と屋内での隙間に対しては、すぐに改善することがもとめられます。費用をかけずにすぐに対策できる改善ポイントのひとつです。工場の3S(整理、整頓、清掃)活動とあわせて、問題部分がないかをあわせて、チェックするのがおすすめですね。
Cガラス窓の修復
ガラス窓などの建物の破損部がないかを確認しましょう。もし、破損部分があれば、修復し、虫の進入経路をなくしましょう。
ガラスの破損などの小さな問題ですぐに改善できるものを見逃す姿勢は、製品の品質に対する意識にも影響しかねないため、小さな問題こそ見逃さず、つぶすことが必要です。
D窓へ網戸をつける
窓に網戸をつけて、網戸以外の窓を開放しないルールを徹底できているでしょうか。高い位置の窓の開けっ放しも厳禁です。ワンポイントレッスンの張り紙で、注意事項を掲示しておくことも大切ですね。
海外工場では、日本と違い、生産工場の窓や扉が開放されていることに対して、意識が欠けている場合が多く、窓に網戸をつけていない場合も多いので、特に注意が必要です。すでに網戸がつけられている場合は、網戸が破れているままで放置されていないか、窓との隙間が開いていないかもチェックしましょう。
E扉の開閉ルール
搬送用の大きな扉の開閉ルールを定めていますか。受入部材の入出庫や製品の出荷に関わる大きな扉は、荷物作業出し入れの扉として、必要時以外使用しないようにしましょう。
また、夜は内部の明かりに誘われて、屋内に虫が入りやすいため、日没後には、屋外と出入りができる扉を限定し、開放してよい時間のルール設定をあらかじめ決めておくこととも大切です。
作業者の出入り口は、別の扉を使用し、大きな扉を必要以上に開けて使用しない、作業後に大きな扉をすぐ閉めるルールを徹底するなど、基本的なルールの確認と徹底をすることもかかせませないことです。
F換気扇や排気口の防虫ネット
換気扇や排気口などのわずかな空間からも虫は進入するため、メッシュの細かい網をつけて、空気の出入りを遮断せずに、内部に虫を入れないように対策しましょう。捕獲される虫の大きさとメッシュのこまかさにも注意が必要ですね。防虫ネットの種類によっては、特殊な薬剤が配合されているものなど様々なものがあります。
下記では、実際に換気扇の防虫対策など、実際の工場で活用されている防虫ネットの役立つ実例がたくさん紹介されています。
■ 防虫ネット 丸三ケンショウ株式会社さん
G扉に開閉型の防虫シートシャッターをつける
フォークリフトなどの出入りや荷物の受入搬送が多い通路は、虫(ほこりも含む)遮断のためにシートシャッターを設けることもできます。新規に工場を建設する際には、部品や製品出荷場の空間を前室のある2重構造にして、トラックやフォークリフトがはいってから、外の扉がしまり、その後、内部の扉が開く、建物の設計にしておくことが、理想的です。
■ 高速シャッター門番 オプトロン門番 昆虫誘因阻止率80% 小松電機産業株式会社さん

下記の動画でも大変わかりやすく紹介されています。
■ シートシャッター門番 KVシリーズ製品特長 小松電機産業株式会社さん
Hエアーカーテンの設置
大きな扉の前に風を送り、見えない空気の壁「エアーカーテン」で虫の侵入を遮断することもできます。風が壁となることで、飛んでくるハエ、蚊などの小さな虫の侵入を阻むことができます。大きなシートシャッターがあるときは、開閉と同時に、このエアカーテンを起動するような相互補完的な活用がされている場合もあります。
■ エアーカーテンによる防虫試験 進入抑制率の検証 日本エアーカーテン株式会社さん
■ シートシャッター門番 他機器への組み込みにも最適 小松電機産業株式会社さん
(2)虫の付着持込防止
@内部に持ち込むパレットや梱包などに付着した虫の除去
搬送用のパレットや梱包など、検査・梱包工程のような一部防虫対策を施した内部へ持ち込むものは、エアブローや清掃点検したものを工程内に持ち込むように注意することも大切です。虫に限らず、汚れを内部に持ち込まないことにもつながります。
輸送上、往復で何度も使用するパレットなどは、いずれどこかで破損するものでありながら、使用時には受入検査があまりされず、釘のとびたしや、木のささくれ、フォークリフトでのつきさし破損などがあり、それが原因で製品の不良につながることもあるので、あわせて、注意が必要しておくのがおすすめです。
A梱包副資材の管理規則の標準化と徹底
梱包副資材などの梱包材は、虫の付かない管理された場所で保管されているでしょうか。
製品の保管に限らず、梱包材の保管および取り出しが、特に管理がおろそかになりやすいポイントです。梱包資材の安易な取り扱いで虫が混入したり、挟まって付着したりしないよう作業手順を標準化して、教育することも大切なことです。
Bクリーン度の改善
高いクリーン度が要求される工場では、工場の製造現場に入る前に、前室を設けて着替えをして、クリーンエアーで付着物を落としてから、製造工程に入ります。製品の品質要求に応じたクリーンな環境をつくり、虫が少しでも入らないような環境を構築する必要な場合もあるでしょう。設備投資費用がかかるため、さまざまな対策と並行して、検討することがもとめられでしょう。
(3)虫の誘引防止
@虫が寄ってきにくいライトへの変更・蛍光灯カバーの設置
蛍光灯の光には、虫が見えやすい紫外線がふくまれていることから、ライトそのものを変えてしまうことや、虫をひきつけてしまわないように、蛍光灯に紫外線カットをするカバーをつける対策もできるでしょう。特に、24時間体制で生産するような工場の場合、作業員の出入り口の照明などは、紫外線カットした照明にするなど十分な対策ができているでしょうか。
A紫外線遮断の防虫シート
工場の照明に含まれる光の中で、虫が好む紫外線の波長領域をカットするフィルターを通路や窓につけて、屋内のもれた光で虫をひきつけないようにします。紫外線の光を好む虫に気づかれないようにするための防虫シートとなります。
■ アキレス株式会社 防虫フラーレ
B虫をひきつけにくい屋外街路灯
虫をひきつけない屋外街路灯を設置して、安全上の明るさを確保しつつ、できるだけ工場周囲に虫を寄せ付けないようにすることもできます。一方、屋外のはなれた街路灯に虫の好むライトをつけて、工場にいかないようにさせる方法もあり、工場環境全体でのライトの設置方法の検討も大切ではないでしょうか。
■ 東北紙工業株式会社さん 防虫対策
■ 岩崎電気株式会社さん低誘虫照明
(4)虫の発生防止
@工場内外の清掃
工場建物屋外の草木を定期的に手入れし、周囲のゴミなどがないように清掃しましょう。
排水溝など水がたまっている場所は、虫が大量発生する環境をつくっているようなものですので、定期的に清掃しましょう。近くに草木が多く生い茂っていたり、水辺の環境がある工場の場合は、特に注意が必要ですね。
A食堂からのゴミの管理
食堂から出た生ゴミなどの廃棄物により、匂いなどで虫が引き寄せられないように管理ができているでしょうか。専用のゴミ箱やゴミだしのルールなど、ものづくり工場とは直接関係ない場所でも、基本的なことができているかを確認しましょう。
B不要なものは廃棄
工場敷地の内外に廃棄物など不要なものが長期間保管されていると、さまざまなものがたまり、虫が生息しやすい環境を作りだすことになります。不要なものは、廃棄する整理(Seiri)を徹底し、清掃(Seisou)して、清潔(Seiketsu)な環境を作り出しましょう。
(5)虫の駆除
@捕虫器の活用
捕虫器は、虫をひきよせる紫外線光をはなち、虫を引き寄せて、進入した虫を駆除することができます。
設置する場所を間違えると、光が虫を引き寄せることになるため、逆に虫を室内にいれることにもなりかねません。屋外から捕虫器の光が見えないような場所に設置して、屋内に入ってしまった虫を引き寄せることで駆除するようにしましょう。
本来は、捕虫器を使わずとも、虫を進入させないような対策を講じることが求められるものです。捕虫器をつけたからといって、安心して、他の防虫対策をおろそかにしてはなりませんね。
■ 岩崎電器株式会社 電撃殺虫器 アイ バーミンショッカー
また、虫のなきがらのお手入れをきちんと実施することも忘れずに。
A殺虫剤の活用
製品や人体、生態系などの環境への影響も配慮したうえで、状況に応じて、殺虫剤の必要性も検討する余地があります。
(6)虫対策の改善効果の確認
@昆虫採集と日記
捕獲された虫の数、虫の種類、捕獲された場所(工程)、捕獲した時間を記録しましょう。
どんな虫が、どれだけ、いつ、どこで発見されたかを記録していくことで、防虫対策の効果と今後取るべき対策の道筋を明らかにすることができます。
このような採集記録をきちんと残していると、虫が発見されたとき、同種の虫が2匹でいる場合が多かったなど、虫も、ヒトと同じように夫婦や友達で仲良く行動しているのかと・・・感じてしまったこともありました。きちんと記録に残して数値で把握することで、多くの「気づき」があるものです。
(7)防虫対策の注意事項
@蚊取り線香による火気注意
蚊取り線香など、火気を使う防虫対策は、火災のリスクがあるため使用しないのがおすすめです。社員が良かれとおもって対策をしていても、工場の安全上・火気厳禁の観点から好ましくない対策もありますので、ご注意ください。
A蜘蛛の巣による自然の防虫対策はNG
工場の中に虫が多く入っていて、5Sができていない工場では、工場内にその虫を捕獲して、えさにする蜘蛛の巣があるものです。
これは、自然の防虫対策といえますが、蜘蛛自体、虫であることをお忘れなく・・・。
虫が工場の光に誘われてはいってくるのは、夜であり、工場訪問時には、気づきにくいのですが、昼間に訪問した工場でも、蜘蛛の巣があれば、防虫に対する対応が十分でないことを示しています。
また、壁付近や溝に虫の死骸なども落ちていないかも、要チェックポイントですね。
(8)ソフト面の対策
@作業者への教育
窓や扉の開閉ルールを標準化して、問題発生時に教育しても、1年が過ぎる頃には、その問題と対策も風化しやすいものです。海外の工場では、特にひとの出入りも多く、ヒトの入れ替わりによって、過去おきた問題と対応がきちんと教育できていない場合があります。
なぜ、窓をしめなければならないか、なぜ、網戸にしなければならないか、その理由を社員にきちんと説明し、理解してもらうこと、その問題が風化しないように内部での工程パトロールで定期的にチェックすること、窓ガラスに標準化したルールやワンポイントレッスンを掲示して、窓を開ける際に注意を促すことなど、小さな改善が必要になってきます。
1度や2度の教育では、身につかず、すぐに組織に定着しないことも認識しておくことが必要です。
A問題の原因と対策を考える学習の機会
防虫対策をする上では、これまで紹介してきた防虫対策をすぐに提示し選択することは、非常に簡単ですが、ハードばかりの対策で満足していては、組織の成長にはつながりません。
海外の現場の責任者や作業者に自ら考えてもらう宿題を与え、防虫のために自分達がすぐにできることは何か、どのようなことができるかを考えてもらうプロセスを共有することが重要です。
問題に対して、個々人の現場の問題としての認識をもって、改善の意識を醸成することが大切です。今後、自分達で問題を発見し、改善する意識をもつ機会にならなければ、ハードばかりの対策をしても、形だけのものになり、他のの問題を未然に予防する組織へステップアップすることもできません。
海外の工場であれば、現地で調達できる材料で対応することも重要な視点ですので、現場の力をいかに引き出せるかが、いかに一緒に自己の問題として考えてもらうかが、重要なポイントではないでしょうか。

防虫のためのアイテムは、様々な企業さんでつくられており、
今回、ご紹介させていたいだいいくつかの製品については、ひとつの参考事例として、
製造工場の環境にあったよりよい防虫対策を見つけるきっかけして頂ければ、うれしく思います。
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