『出荷停止』とは、
出荷する段階の最終製品において、特定の基準を満たさない場合に
市場への製品の出荷を停止することです。
サッカーでは、レフリーが、選手の危険なプレーに対して、
注意をうながすためにつかうイエローカードや
危険な選手を退場させるためにつかうレッドカードがあるように、
定められた基準を守らない場合に対して、どのような対処を行うかは、
ものづくりにおいても、大切なことです。

今回は、『出荷停止』について、考えてみましょう。
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<出荷停止とは?>
(1)出荷停止の目的とは?
(2)製品の出荷停止のポイントとは?
@いざというときにだれが責任をもって判断するか?
Aいかに、冷静に判断できるような環境をつくるか?
(3)出荷停止の範囲
@製品名と対象機種(対象製品の特定)
AロットNoと生産時期(対象ロットの特定)
B仕掛品/完成品/輸送品/納入保管品/市場品別での製品数量(数量・状態の特定)
(4)出荷停止と解除
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(1)出荷停止の目的とは?
工業製品の場合は、
あらかじめ取り決められた品質上の基準を満たさないことがわかり、
事前に製品の出荷を取りやめる場合に出荷停止が適用されます。
また、すでに出荷された製品において、あとから品質問題が確認されて、
生産中の製品の出荷停止を行い、リコールによって、
製品を回収・交換対応する場合にも適用されます。
野菜などの場合は、
品質基準(Quality)を満たさないものに対する『出荷停止』ばかりでなく、
豊作に伴う供給過剰により、市場での価格の値崩れによって、
暴落を防ぐために、数量・納期(Delivery)と価格(Cost)の調整を目的として、
一時的な出荷停止をかけて、調整する場合も見られます。

このような緊急的な対応を要する『出荷停止』は
いざというときのための重要な手段であり、
事前に組織での権限や対応方法を決めておくことが、重要です。
(2)製品の出荷停止のポイントとは?
工場製品の出荷停止は、いざというときのための品質保証を実現する大切な権限といえます。
製品の品質が、確保が出来ていないことが判明した場合に、
製品の出荷をとりやめる重大な意思決定ができるように、
事前にどんなことを決めておくことが必要でしょうか。
@いざというときにだれが責任をもって判断するか?
通常、最終意思決定者は、社長であり、工場長ですが、常に会社にいるわけではありません。
そのため、経営トップから、権限を委譲されて任命された品質責任者が、
日頃からその重大な品質の意思決定を担い、
製品の最終品質を維持できるように監督しておくことが大切です。
そこで、品質保証責任者が、『出荷停止』をかけられる権限を
社内の規定で明文化して、社内のルールとして徹底しておくことが求められます。
このような品質保証責任者が、品質に対して、
厳しくジャッジすることを社内全体に宣言しておくことで、
製品品質を内部で高める努力が、より促進されることになります。
成り行きまかせの品質判定で製品の出荷がなされるようでは、
お客さまに満足いただけるような製品は提供できません。
あとから、クレームとなってご迷惑をおかけすることのないように、
鋭い眼を光らせる品質保証責任者の任務は重大といえるのではないでしょうか。

Aいかに、冷静に判断できるような環境をつくるか?
出荷停止の判断のためには、客観的で、冷静な判断が求められます。
製品の製造部門であれば、自らつくってしまった製品の出荷を取りやめることは、
問題を自ら認めることになるため、心理的に抵抗があり、判断しにくいのも事実です。
そのため、品質保証部門が出荷停止の権限をもち、
責任をもって、最終判断することができるように
品質保証に対して、影響を与える技術部門や生産部門から、
品質保証部門を独立させた組織構成とすることが大切です。
技術部門や生産部門と独立した品質保証部門の長が、
出荷停止の権限という『抑止力』をもつことで、
製品品質を向上させる『見えない力』を行使することがポイントです。
(3)出荷停止の範囲
出荷停止をすることは、簡単ですが、
その対象範囲や原因が不明のままでは対処ができません。
問題が発覚した時点で出荷を停止しなければなりませんが、
下記のような出荷停止の対象範囲を明確にすることが大切です。
@製品名と対象機種(対象製品の特定)
どの製品でどの対象機種の問題であるかを確認することが必要です。
特定の部品にかかわる原因の問題である場合、他の製品にも共通部品を使用しており、
適用範囲が拡大する恐れがある場合もあるので注意が必要です。
AロットNoと生産時期(対象ロットの特定)
問題のある製品の生産時期やロットNoの範囲をさらに特定することが必要です。
市場で問題のある場合は、問題の確認されたロットNo範囲を明確にすることで、
特定期間に依存した製造ばらつきによる原因などの可能性を疑う仮説につながります。
B仕掛品/完成品/輸送品/納入保管品/市場品別での製品数量 (数量・状態の特定)
どの範囲のものから不良が発生しており、
その対象がどこにどれだけどんな状態であるのかを把握し、
問題の範囲とそれぞれに対する個別の対応を図ることが求められます。
出荷前の倉庫品であれば、全数再検査して、チェックしたり、
輸送中の輸送品であれば、引き戻して確認したり、
市場出荷品であれば、お客さんの許可を得て、着荷確認、回収・代納するなど、
それぞれの製品状態によって、
さまざまなリカバリー対応を図ることが必要になります。

そのため、対象となる製品の仕掛品/完成品/輸送品/納入保管品/市場品といった
各状態とその数量を明確にできるような管理が日頃から求められます。
(4)出荷停止と解除
出荷停止の発動は、すぐに生産をストップさせることも大切ですが、
正式な書面で、出荷停止を宣言した記録や理由を明確にして対処することも大切です。
いざという時のために出荷停止の書面を規定にもりこんでおくこともおすすめです。
また、出荷停止は、いつまでもつづけることはできません。
現在、生産しているものが、止まることで、
お客さんへの納期や生産にも影響する可能性があるため、
迅速な品質改善対応が求められます。
出荷停止が実施されたときには、
同時に原因の追求と改善結果の妥当性検証が必要になり、
品質部門と技術部門と生産部門などが協力して、
品質問題の原因究明と改善対策を施し、問題の発生防止と流出防止を図ります。
同一製品を製造している他の工場がある場合には、
対策の水平展開も忘れずに図る情報共有がかかせませんね。
すでに市場に対象製品が出荷されている場合には、
お客さんへのリカバリー対応として、
説明・代納・補償・サービス対応・リコールなど
さまざまな対応が求められることになるでしょう。

さらに、出荷された製品の自社での試験検証による評価、
第三者機関での試験検証による客観的な確認評価など、
出荷された製品の品質の再評価を同時に実施して、
リスク検証や報告が必要な場合もあるため、
スピード感と正確性が要求されることも多いでしょう。
今回は、いざというときの、『出荷停止』についてご紹介しました。
出荷停止は、市場で大きな問題となる前に
出荷をとりやめて、最終品質を瀬戸際でおさえる手段として、
また、問題を未然に防ぐ抑止力として、うまく活用したいものです。
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出荷停止は、品質管理課にとっても苦渋の決断と考えます。今の品管に「Q・C・D」の意識が無いのは、致命傷と思います。そこで、出荷停止の判断に迫られた事は、一度や二度では有りません。
私のラインは、365日24時間稼働ですが、土日・深夜の判断権限をどこまで落とすのか(シフトリーダ?品質担当者?)一番悩みました。
それには、日ごろからのコミュニケーションが一番大事だと痛感されました。
今も昔も大事なのは、人の「つながり」の品質かもしれませんね
品質管理研究所 かおるです。
いつもコメントありがとうございます。
出荷停止をかけることは、気分のよいものではありませんよね。
お客様に不快な思いをさせないことにつながっていると思えば、
正しい判断なのですが、品質保証課としては、つらい決断ですよね。
土日の対応などは、本当にコミュニケーションが大切ですね。
お休みをいただいているときの緊急個人電話は、どきっとします。
協力工場さんでの指定納入材料の傾向的な不良の場合は、
なぜだか、金曜日の夕方ぎりぎりに不良の報告が多いように
感じるのは、わたしだけでしょうか(笑)。
現場でも悩みに悩んだ末、
どうにか対応しなければ、問題が拡大するため、
ぎりぎりで連絡する心理が、働いているのかもしれませんね。
出荷停止では、特定ロットが不合格となるロットアウトに限らず、
すでに梱包した出荷前品のリスクの可能性があると、
全数良品納入のために、再検査する必要がある場合も生じます。
QCDのDの良品在庫・納期の関係から、
その対応すべきスピード感もかわってくるので、
政之助さんのように、24時間フル生産されている現場では、
あらかじめ定められている社内ルールの運用はもとより、
そのルールを現場で理解し、
リカバリーを迅速に行うために、
日頃からのあいさつや声かけ、
仲間との『つながり』は大切ですよね。
タバコを吸う方の場合は、
狭い喫煙空間での『タバコミニケーション』が
重要なコミニケーションの場となることは、
多くの工場でみられる現象ですが、
共通点探しが、仲良くなるポイントではないでしょうか。
製品という共通の話題を通じて、
コミニケーションと品質を高めたいものですね!
品質管理研究所 かおる