2012年07月21日

柔軟な発想!特別採用とは?

柔軟な発想!特別採用とは? − 品質管理研究所 −


製造業の品質保証の実務では、
あいまいなことや判断にまようことに正面から向き合うことが大切です。

いざというときにどうするか、そのために覚えておきたい柔軟な考え方が、
『特別採用』、略して、『特採(とくさい)』では、ないでしょうか。

特別採用

実務の大切な考え方、『特別採用』について考えてみましょう。

__________________

<特別採用とは?>

(1)特別採用とは?
(2)特別採用が必要な場面とは?
(3)納入部材の特別採用のポイント
 @品質(Quality)
 A納期(Delivery)
 Bコスト(Cost)
(4)特別採用の抜け道 アウトレットセール
(5)特別採用の落とし穴
 @品質意識の低下
 Aトレーサビリティの確保
 B品質問題の改善
__________________



今回は、納入される部材の特別採用を例に考えてみましょう。


(1)特別採用とは?

特別採用とは、製造業において、最終製品の品質に影響の与えないことを前提に、
特別に使用を許可して、応急的な対応をはかる考え方です。


「特別採用」ということばのとおり、

『今回だけ、特別に採用します』という意味をこめた臨時的な特別対応といえます。

ISO9000シリーズの品質マネジメントシステムでは、

『不適合製品の管理(Control of nonconforming product)』に該当し、

その中で定義される『特別採用(concession)』では、
「規定要求事項に適合していない製品の使用又はリリースを認めること」と紹介されており、

ISO9001に対応している管理システムをもつ企業では、
『特別採用』は、一般的に通じる共通言語となっています。


(2)特別採用が必要な場面とは?

ある製品のロットで不良品が多発したとき
被害拡大を防ぐためには、何をすればよいでしょうか。

もちろん、使用している問題のあるロットを保留し、
部材の原因調査や対策を行いますが、

生産稼動は、落とすわけにはいきませんので、あまりに不良が多い場合
別の良品ロットから優先的に使用することを考えなければなりません。


しかし、生産がタイトで、さらに不良品が多くのロットをまたがり発生している場合、
良品ロットの優先的な使用だけでは間に合わず、

不良ロットの中に埋もれている良品のみを使用することや、
良品部分のみを選別使用することも、検討せざるをえない場合があります。

通常であれば、多発した不良ロットは、品質上のリスクが高いことが懸念されるため、
いったん使用するのをやめて、部材メーカーさんへ不良として返却して、
原因究明と対策の実施を行い、数合わせに良品ロットで代納してもらうことになります。


しかし、生産納入のタイミングや在庫の状況、生産先と納入先の距離などによっては、
良品のみを選別して、使用せざるを得ない場合も、現実の製造現場では発生します。

そんな時は、『特別採用』を行い、不良品ロットの中でも、良品のみを選別して使用する
特別の対応を実施することで、品質は維持したまま、生産を続けることを可能にします。

特採は、いざというときのために使用する切り札であり、
通常、厳格な品質を維持するためには適用しませんが、

実務上、必要にせまられたときに、
下記のような条件にあてはまる場合に適用されることが多いでしょう。


@不合格になった製品ロットから、良品のみを全数チェックし、選別使用できる場合、
A不良品の一部分を除去し、良品部分を選択的に使用できる場合
B納入部材のスペックからわずかに外れているものの、最終製品の仕様は、満足しており品質上問題ないことが確認できる場合
(事前に規定した製造後納入期間をこえているが、製品品質に影響がないことが確認された場合など)


(3)納入部材の特別採用のポイント

@品質(Quality)
特別採用は、少し問題のある部材を特別に採用することによって、
製品そのものの品質をおとすものではありません。

品質不良の納入部材を使用しないことは当然ですが、
選別された部材やイレギュラーな追加の対応を図ることで、品質・信頼性・安全性の観点から
更なるリスクがないことを自社はもちろん、部材メーカーさんの立場で検証し、
問題ないことが迅速に確認することが求められます。


特別採用とは?

特別採用した部品に伴う品質リスクがないことを部材納入メーカーさんの製造責任として、
確認いただくことで、部材を使用する立場ではわかりえない品質上のトラブルを未然に防止し、
仮に発生したときのリスクをヘッジすることも求められます。

さらに、その確認をもとに、特別採用に関わる要望書面を捺印入りの正式な書面で、
提出していただくようにしておくことが大切ですね。



A納期(Delivery)

特別採用する上での優先事項として、納入部材を組み込んだ最終製品を購入する
最終消費者のお客さんに影響のでないように、品質はもちろん、

納期に間に合うように現場での生産が継続できるような選別などの
迅速な対応がはかられるような情報共有と連携が大切です。


複数の工場に納入されている部材の場合には、

問題となる部材の対象範囲がいつからいつまで生産されて、
納入されたロットに限定されるのか、

どこの工場に納入された可能性があるのか、
納入在庫がどれだけあるのかを明確にして、
被害を最小限に抑えて、先手、先手の対応を図ることが求められます。


工場では、使用する納入部材の1日あたりの消費量から、
いつまでに良品ロットがなくなる可能性があるのかを
具体的に見積もり、生産に遅れが生じないように
最善の対応を検討し、納入部材メーカーさんへ状況を伝えることが求められます。


すでに納入された部材の在庫の現品全数検査と、
製品に組み込まれたときのリスクも含めた流出防止対策としての、
後工程、検査工程への情報の伝達もかかせませんね。


Bコスト(Cost)
特別採用が生じるときは、不良品に伴う選別などの追加作業や
検証試験や確認などの追加対応が必要になるため、

単に良品を代納されるだけでなく、
部材の購入額は、通常の買価よりも減額して、購入されることが多いでしょう。


不良品を納入してしまった部材メーカーさんにとっては、
製品をすべて返却し、自社の工場に輸送して選別する費用や
追加の臨時生産を行い、緊急対応する費用と比べれば、

特別採用により良品をうまく使用してもらい、不良品のみを回収するほうが、
トータルの対応コストとして、費用を抑えることにもつながるため、
通常の販売価格からの減額し、対応することは、結局コスト削減になるのかもしれません。

もちろん不良品ロットが納入された場合の特別採用では、
品質問題の負い目で交渉上有利な立場になることも考えられますが、

実際には、不良品に伴い生産がストップするリスクは、
単なる部材不良の費用負担といった小さな話ではないため、
特別採用によりこの生産停止のリスクを回避することができること、
企業の取引における信頼を失わないメリットのほうが大きいといえるでしょう。


工場の稼動をとめるリスクとわずかな部材の減額を天秤にかけたとき、
特別採用に伴う部材の販売価格の減額でリスクを回避できることを考えれば、

モノを納める側にとっての供給リスクの回避と企業としての信頼の維持、
モノを使う側の生産の安定化の両方をはかることは、

問題をうまく乗りきるための必要手段として、
お互いにとっての良い選択となることでしょう。



(4)特別採用の抜け道 〜アウトレットセール〜
品質上問題ないことを確認して採用するのが特採ですが、
最終のお客さんとの関係性の中から、

製品品質は少しだけ劣るものの、
お客さんにその品質情報を公開した上で、
グレードを落とした商品を販売するというアウトレットで、
製品自体の格付けを変える(Regrade)という発想もあります。

事前にお客さんに一部、品質上問題があることを告知した上で、
品質基準を下げて、コストを低下させて、販売することで、
製品の廃棄ロスを低下させ、損失を軽減することができます。

作り手側にとっては、少し気になる品質上の問題があっても、
お客さんにとって、気になる品質上の問題ではなく、
安全安心に使うことができるのであれば、満足のいくお買い物となります。

製品ブランドの維持とのせめぎあいもありますが、

良品のみを使用する発想から、良品の基準を下げたBグレード品として
不良品を良品として扱う発想の転換ができる製品の場合には、
基準自体を見直してみることも効果的です。


納入部材メーカーさんから最終組み立てメーカーに対して、
特別採用をお願いするように、

販売者の立場から、お客さんに対して、
特別採用をお願いすることがこの再格付けの考え方といえるでしょう。


問題ないといっていた商品を販売して、
あとから問題がみつかれば、クレームとなりますが、

事前に問題があることを告知しておき、
それをふくめて安く購入していただければクレームにはなりません。

違いは、どの段階で問題があることに気がつくかということだけです。
マイナスの情報こそ、事前の早い段階で、積極的に伝えることが大切です。


お客様に対して、ランクがおちること以上のメリットを提供できれば、満足いただけるのです。
購入する前のより早い段階で、情報の格差を埋める努力をすることが大切ですね。


(5)特別採用の落とし穴
@品質意識の低下
特別採用の柔軟性はいざというときに役立ちますが、

不良ロットを許容し、特別に受け入れられる状況が当たり前になってしまうと、
特別採用を前提とした逃げ道をつくり、品質意識の低下をまねきかねません。


そこで、特採は、社内規定の中に、あらかじめその運用方法や承認の仕組みを定義しておき、
製造責任者、技術責任者、購買責任者、品質責任者、工場長など、
適切な責任者の承認をへて、実施される特別な仕組みとして運用を図ることが求められます。

また、特採の採用ロットの範囲を明確にし、

その適用期間や数量を絞り、あくまで臨時限定した措置として位置づけ、
根本的な問題の発生防止対策や流出防止対策を行うことが求められます。

特別採用の乱発が、品質に対する意識の低下を招くことのないよう
注意しなければなりませんね。



Aトレーサビリティの確保
特別採用を実施する場合は、不良品と良品の識別管理が不明確になりやすいため、

臨時的な特別採用をはかった製品ロットを明確にわけて、良品と不良品を識別管理し、
現物はもちろん、記録に残し、いつでも確認できるようにしておくことが求められます。

トレーサビリティ

B品質問題の改善
特別採用をする場面では、生産をつなぐための応急的な対応で
一刻をあらそう事態の場合、生産がつながったことでほっとしてしまいがちですが、

問題に対する発生原因対策と流出防止対策がきちんと
行えていなければ、同様の問題が再発するリスクをかかえたまま
生産することになりますので、

特別採用が申請される時には、その問題の発端を明確にして、
対策結果を確認することが求められます。

また、このような緊急事態に陥ることがないように、
部材の供給先を1社ではなく、複数社購買にしておくことも大切です。

ある1社の納入部材で問題がおきたときには
すぐにバックアップできるように

複数社購買をはかって、供給の安定化を図る
未然予防を行うことも中長期的な視点で考えておくことが
品質を安定化させるのではないでしょうか。


今回は、実務で覚えておきたい『特別採用(特採)』についてご紹介しました。
いざというときのために、参考になることがあれば、うれしく思います。


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posted by かおる at 18:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 品質不良
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