(2011年4月2日)品質管理研究所
製品の品質を維持・向上させるためには、
その製品を構成する部品や材料(部材)そのものの品質を高めることが求められます。

では、部材の品質を維持・向上させるためには、何をすればよいでしょうか。
まずは、取引先の部材メーカーさんに『どんなものがほしいか』
ということをしっかり伝えることが大切です。
その伝える内容こそが、『部材の要求品質』といえます。
最終製品としての品質を確保するために、
その最終製品を構成する部品としての要求品質を明確にして、
要求仕様として、部材メーカーさんに理解いただくことが必要です。
では、『部材の要求品質』をどのようにつくり、
どんなポイントをおさえればいいのか考えていきましょう。
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<部材の要求品質について>
(1) 『部材の要求品質』を明確化するには?
(2) 『プロダクトライフサイクル』から考える『要求品質』
(3) 過去の失敗経験を活かす『要求品質』
(4) 3Rの視点で考える『要求品質』
(5) バランスも大事『要求品質』
(6) 『品質要求事項』の共有
(7) 『品質要求事項』の活用
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(1) 『部材の要求品質』 を明確化するには?
部材の要求品質は、
最終製品を使用されるお客様がもとめる要求事項を
市場の声に耳をかたむけ、あつめることからはじまります。
その貴重なお客様の声をもとに、最終製品の品質要求を明らかにし、
個々の部品として必要な品質特性に落とし込んでいく必要があります。
部材メーカーさんから出された仕様書を鵜呑みにしていては、
自らほしい部品の特性を網羅することはなかなかむずかしいでしょう

それは、最終製品をつくるメーカーでしか把握できないような
個々の部品を組み合わせたときの必要な品質特性があるからです。
実際に、部品の要求品質を明確化することは、
さまざまな立場での実務にもとづく経験や知見が必要で、
要求品質を過不足なく明確化することは、けっして容易ではありません。
では、要求品質を考える上でどのようなポイントが大切かを次に考えていきましょう。
(2) 『プロダクトライフサイクル』から考える『要求品質』
部材の要求品質をもれなく考えるためには、まず、
最終製品の『プロダクトライフサイクル』を考えるのがおすすめです。
『プロダクトライフサイクル』とは、
企画、設計、生産、市場、アフターサービス、廃棄・リサイクルまでの一連の流れです。
製品がうまれ、お客様に使用され、寿命をまっとうして、
製品があらたに生まれ変わるまでの流れを、順番に考えることで、
品質要求のもれを防ぎやすくなります。
【プロダクトライフサイクルから考える品質要求事項】
A:企画・設計的視点からの品質要求事項
例:外観、寸法、材料物性、機能特性(接着強度など)など
B:生産的視点からの品質要求事項
例:加工・保管・運搬に影響を与える特性 (コロナ処理、帯電、輸送梱包)など
C:市場視点からの品質的要求事項
例:長期信頼性にかかわる品質特性、海外輸出に対応した準拠規格・法令順守、
異なる国のお客さんの望む外観品位や、誤使用防止、こどもがけがをしないなど
D:アフターサービス視点からの品質要求事項
例:修理・交換のしやすさ、同一機能の部品の共通化、
問題発生時の改善報告および1次対応時間の明確化、
不良発生時の代納や全数検品対応など
E:廃棄・リサイクル視点からの品質要求事項
例:RoHSやReach規制などの環境的視点からの材料成分の指定と維持など
最終製品の品質要求から個別の部品の要求品質へと展開し、
企画や設計の段階でいかに早く、このような情報を取引先の部品メーカーと共有し、
一緒にものづくりに取り組んで行けるかが、成功へのかぎとなります

部材メーカーさんには、伝えきれない、最終製品を造るメーカーとしての
企業秘密やノウハウもあるでしょうから、最終製品を造りあげる立場でしかできない
各部材の摺り合わせの品質ももちろん注意が必要ですね。
(3)過去の失敗経験を活かす『要求品質』
過去の企業の実績より積み上げられた品質・安全上の設計基準がある場合は、
その内容を組織知として反映させることが必要です。
また、類似製品、他種製品での過去不良モードと改善対応から、
部材の品質要求項目として反映させることも大切です。
1800年代ドイツの統一の立役者である初代宰相のビスマルクの名言に、
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
という意味のことばがあります。
何か失敗したときに反省して学ぶこと(経験)は重要ですが、
それ以上に、過去の先人の失敗(歴史)を学びとり、
同じ失敗や過ちをくりかえさないように努力することの重要性をといています。

成長する上で、失敗をするようなチャレンジの場をつくりだすことは、
もちろん大切なことですが、過去の歴史を学んでいれば、未然に防げる失敗もあるはずです。
そんな必要のない低レベルの失敗は事前に、設計段階で解決し、
より高いレベルの課題を解決することに力点をおくことが大切ではないでしょうか。
部材の品質要求事項を明確にする場合でも、担当者としては初めてあっても、
過去の先輩や他の部門、他の事業部、一般的事象として、
すでに知られていることのほうがはるかに多いのではないでしょうか。
そのような過去の歴史を学び、新部品に反映させ、
より高いレベルの課題を解決して、品質を高めることが大切ですね。
(4) 3Rの視点で考える『要求品質』
継続した取引がはじまると、量産に伴うコストダウンの必要性が生じてきます。
部材の生産工程では、
特に3R(リユース_Reuse、リデュース_Reduce、リサイクル_Recycle )
という視点からの取り組みがふえますので、
部材の製品品質、工程品質が継続して維持されることを、
要求品質項目として、事前に確認しておくことが非常に大切です。
取引開始時にはあまり想定していない項目こそ、注意が必要ですね。
たとえば、原材料のリサイクル比率や純度をコントロールして、
品質をおとさず、コストダウンにつなげることもあります。
もちろん事前に変更の届出をして、試験による品質の妥当性確認を行い、
最終メーカーの承認をへて変更を正しい手順でおこなうのであれば問題ありません。

ただ、品質要求に3Rの視点でもれていると、知らぬ間に品質がおちていてもきづかず、
きづいたときは市場不良、なんていうことにならないように、
特に注意していただきたいものですね。
(5)バランスも大事『要求品質』
部材の要求事項をもれなく抽出すると、もちろん
部材の性能、機能、信頼性などのQ(Quality:品質)を向上させることにつながりますが、
一方で想定以上のC(Cost:コスト)アップやD(Delivery:納期、数量)問題が
発生してしまっては、製品の全体最適化になりませんので、
品質要求の視点だけで、
部分最適化に陥ることがないように注意したいところです。
品質メンバーだけで議論したり、品質の声がつよくなりすぎて、
お客さんが望まない期待する以上の過剰品質になってしまうことの
ないようにすることは、
品質担当者において注意したいポイントのひとつですね。
品質を過剰に高くしたあまりお客さんの手の届かない値段に
なるなんてことはあってはなりませんね


(6)『品質要求事項』の共有
明確化した要求事項をきちんと伝えるためには、
その部材が使用される最終製品の自社での位置づけ、コンセプト、ビジョンを、
部品メーカーの経営者さんだけでなく、現場の技術者・品質管理者に直接あって
きちんと伝えることが大切です。

『相手になにをいったかではなく、相手がどのようにうけとめたか』
がコミュニケーションの基本ですね。
大切なことは、情報の発信量の最大化ではなく、情報の受信量の最大化です。
トップダウンの連携はもちろんのこと、実際に現場で手をうごかして、
作業される現場のみなさんとのボトムアップの連携もぜひ積極的にしたいものです。
(7)『品質要求事項』の活用
品質要求事項を明確にすれば、部材の複数社購買を行う際にも、
第二サプライヤーに対して、品質要求事項を要求仕様として提示して、
活用することができます。
複数社購買をすることで、製品品質の更なる向上、コストダウンに加え、
納期対応向上や災害リスクを回避するなどのメリットがあります。
第二サプライヤーの同じ部品を使用する場合は、
過去に取引をしている第一サプライヤーと同等以上の品質要求事項を提示し、
規準が少なくとも同レベル以上であることを保証する必要があります。

コストダウンをはかっても、品質を維持できなければ本末転倒です。
第一サプライヤーに対しては、過剰な品質を要求していた場合は、
もちろん品質基準を妥当な値に設定しなおすことも必要ですが、
複数の品質基準が併用されると製品品質のばらつきが生じますので注意が必要ですね。
ですから、最終製品の品質の維持・向上を図るためには、
複数社の同じ部材で複数のスペックで、
運用されないよう仕様書締結時には気をつけておきたいところです。
今回は、部品の要求事項を明確するためのポイントをご紹介しましたが、
なにかすこしでも、みなさんのご参考なることがあればうれしい限りです

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