製品のかなめともいえる品質を保証するために、
製品や設備の状態を測定し、
目に見えるような形で管理することが大切です。

そんな見える化による管理のために、
多くの企業で実践活用されている方法が、QC7つ道具の『管理図』です。
今回は、QC7つ道具の一つで、
実務で大変役に立つ『管理図』について考えていきます。
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【管理図について】
@『管理』とは?
A『管理』の意味は?
B『統計的品質管理』とは?
C何を管理するか?
Dシグマσを利用した統計的品質管理とは?
E『管理図』とは?
F管理図の使用上の注意点とは?
1)管理図はだれがしっておくべき?
2)管理図の管理アウトと仕様書のスペックアウトの違いとは?
3)管理図を効果的に活用するためには?
4)管理図は社外の管理にも適用できる?
5)管理図の更新とは?
6)どんな管理図があるの?
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以下で、上記の項目について順に確認していきます。
すぐに『管理図』について、確認したい方は、E『管理図』とは?から確認してみてくださいね。
@『管理』とは?
■『管理』とは、いったいなんでしょうか。
あなたが思い浮かべる『管理』のつく言葉を1分間で書き出してみてください。
どんなことばが浮かぶでしょうか。
■管理のつくことばには、
『品質管理、工程管理、部材管理、納期管理、顧客管理、目標管理、在庫管理、
原価管理、生産管理、システム管理、温度管理、管理状態、体重管理、管理費用、
管理人、管理職、情報管理・・・』
などがあります。管理がつくだけで、しっかりしているイメージがわいてきますね。
身近でつかわれているにもかかわらず、なかなかおもいつかないものです。
1分間で10個以上書かければ優秀ですね。
A『管理』の意味は?
■日頃から使っている『管理』とは、どんな意味なのでしょうか。
あなたが思い浮かべる『管理』の意味について1分間で考えて書き出してみてください。
どんな意味がでてくるでしょうか。
■『管理』とは?
『管理』とは辞書の意味ではどんな意味がでてくるのでしょうか?
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管理 ※大辞泉 提供: JapanKnowledge
1 ある規準などから外れないよう、全体を統制すること。
「品質を―する」「健康―」「―教育」
2 事が円滑に運ぶよう、事務を処理し、設備などを保存維持していくこと。
「―の行き届いたマンション」「生産―」
3 法律上、財産や施設などの現状を維持し、また、その目的にそった範囲内で利用・改良などをはかること。
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特に注目したいのは、1番目の意味で
『ある規準などから外れないよう、全体を統制すること。』という意味です。
『管理』のためには、まず、『基準』を定めることが大切であり、
基準から外れないように、目先のことではなく、『全体』を統制する『全体最適化』
の考えに基づき、統制することが大切ということです。
個別最適化するばかりに、全体での流れをみだすようなことは、あってはなりませんね。
近視眼的に目先の問題を解決しても、全体的にみたとき、
また、長期的な視点でみたときに、プラスにはたらかないような管理では、
本質的な管理になっていないということになります。
つまり、『管理』をおこなうためには、全体としての本質的な目的を再認識し、
個別の管理基準を定め、全体をみすえて統制していくことが大切ということですね。
B『統計的品質管理』とは?
それでは、品質管理上の『統計的品質管理』とはいったいなんでしょうか?
統計的品質の創始者であるシューハート(W.A.Shewhart)は、
偶然原因(Chance causes)と見逃せない原因(assignable cause)の二つにわけて、
管理状態を定義しています。
■偶然原因(Chance causes)と見逃せない原因(assignable cause)
偶然原因とは、製造工程において、適切な作業標準(Method)で、適切な材料(Material)で、適切な機械(Machine)で、適切な人材(Man)で、適切な環境(Environment)で作業したときに、異常な4M1Eの変動がないにもかかわらず、製品品質などの結果にばらつきを与える要因のことで、技術的に経済的に抑制することが困難なものです。
それに対して、
見逃せない原因とは、4M1Eなどの製造時の変動により生じるばらつき要因で、
工程管理を行うことで避けられる要因のことです。突き止められる原因ということで、
要求品質に合致するように改善することのできる要因になります。
統計的な品質管理状態は、この見逃せない原因が取り除かれ、偶然原因によるばらつきによって、
製品にばらつきが生じている状態です。つまり、見逃せない原因が存在する場合は、統計的な
管理状態にない状態ということになりますね。
C何を管理するか?
私たちの身の回りには、言語データと数値データがあります。
製造業でよく用いられる管理図で管理する対象は、その中の数値で表記されるデータになります。
私たちは、管理図のようなグラフを幼いときから身近に見ています。
それは、小学生のとき自由研究で、温度と湿度と天気の関係のグラフです。
データは、時系列でとり、過去の傾向から予測したり、過去の同じ日のデータと比較したり、
単にデータをとるだけでなく、実際の外の天気を見たりして、複合的にデータを活用して、
予測などの考察を加えて、活用することが大切でしたね。
また、夏休みの終わりに夏休みの課題ができていないわが子のために、
地域の温度や湿度データを取得している公共機関に問い合わせをして、
まとめてデータ取得するようなことが、インターネットが普及する前にはよくあったそうです。

データの取り方も、データの活用するうえでは、もちろん大切なこともわかりますね。
同じように製造業で使用される『管理図』も、時系列で数値データを継続的に取得して、
そのデータの値やデータの変動、そして現場の状況とあわせて、
品質状況を把握・管理するために活用することができます。
目的をまちがて活用すると何の役にもたちませんので、
『管理図』を道具として活用できるようにこれから理解していきましょう

Dシグマσを利用した統計的品質管理とは?
工程で管理される数値データ(身長、体重のような連続的なデータ)は、
正規分布とよばれる統計的な分布にしたがうことが知られています。
正規分布については、下記のサイトを参照してみてください。
※正規分布 Wikipedia
※正規分布 ◇正規分布◇
この正規分布が描く曲線の変曲点がσの基準になっています。
変曲点は、上の弧と下の弧がいれかわる境目です。
この境目を品質上の基準のひとつにしていますので、覚えておきましょう。
次に、このσについて、具体的に考えて見ましょう。
小学生の身長のデータを1000人取得したとき、
データの中心値は、その1000人のデータの平均値となり、その前後で身長データがばらつきます。
そのデータのばらつきは、正規分布にしたがって、ばらつきます。
身長が小さい子もいれば、身長の大きい子もいますし、平均的な身長の子が多くいることも経験的にわかりますね。
たとえば、平均的な身長の子を中心値として、その中心値を境にして、
両側のσの範囲内に入る場合は、平均的な身長の子から前後約68.3%がしめますので、
683人が占める範囲となります。
3σは、このσを3倍したところのデータで、中心値を境にして、
3σの両側の約99.73%が占める割合になりますので、
背の極端に小さいこどもと極端に大きいこどもを除いた、
ほぼすべての身長の子が該当することになります。
これを『千三つの法則』といい、
3σでは、全体の1000個のデータを取得したときに、
3個ぐらいのごくまれにしか含まれない確率の現象として知られています。
※3σから外れる確率は、0.0027(0.27%)
『千三つの法則』 3/1000≒0.0027(0.27%)
そこで、このごくまれにしか当てはまらない3σを基準にして考えるのが、『統計的品質管理』になります。
通常の統計的に管理された工程状態では、取得したデータのうち1000個の中で3個が
このような外れた状態になることは統計上理解されますが、
ごくまれにしか発生しないことから、このようなデータが出てきた場合は、
異常原因によるばらつきが大きいと判断し、管理異常と判断するということにしています。
このようなデータの異常や傾向性から管理異常をみつけて、
問題を未然に予防するためのツールが『管理図』となります。
E『管理図』とは?
管理図とは、製造工程の管理特性や製品の特性などを時系列で取得し、
そのばらつきを、中心線と3σの管理限界線で管理していくツールです。
上下の管理限界線から超えたり、そのデータの傾向性に異常がある場合に
管理異常として判断して、工程や製品を安定状態に保つために活用することができます。
では、具体的に実例を見て見ましょう。百聞は一見にしかずですね。
※管理図の実例図集
※日科技研HP 管理図とは
※日科技研HP 管理図
管理図のイメージがわいたでしょうか。
中央の線は、平均値、中心線で、3σのところに用いられる線が管理限界線と呼ばれ、
上側の管理限界線をUCLといい、下側の管理限界線をLCLと呼び、管理上の重要な基準としています。
UCL(Upper control limit): 上方管理限界線 〜平均値+3σ
LCL(Lower conrol limit) : 下方管理限界線 〜平均値−3σ
この基準をもとに工程や製品の異常を判断するルールが8つありますので、
判定基準を理解しておきましょう。管理図を描いたときこの現象がみられたときは、
工程につきとめられる原因が存在するとみなして、改善のアクションをとっていくことが
必要になります。
■管理異常となる八つのルール
1)管理アウトがある。(3σの範囲外)
2)中心線と管理限界線の間に9つの連がある。(9点が中心線に対して同じ側にある。)
3)6点が増加、または、減少している。
4)14の点が交互に増減している。
5)連続する3点中2点が限界線と2σの間にある。(接近)
6)連続する5点中4点が限界線と1σの間にある。
7)連続する15点が中心線から1σの間にある。(中心化傾向)
8)連続する8点が中心から1σの外にある。
※『 QC入門講座 7管理図の作り方と応用 P92 日本規格協会』より
上記の8つのルールは、QC検定の参考書として推奨されている教科書から抜粋したものですが、
この異常判定の兆候判定ルール(2)〜(8)の7つルールについては、各自の製造対象物や
工程の過去の経験などを踏まえて、自工場の判定ルールとして、現場に即した形で柔軟に
運用することを推奨しています。
ですから、この基準の根拠をうたがうことなく、決められたとおりに行うだけでなく、
その意味合いについても考えることが管理をする意味で大切です。
日頃仕事で社外の工場へ監査させていただくと、
多くの工場では、管理図のデータを取得することで満足して、データの活用にまでいたっていないのが現状です。
せっかく取得したデータを活用するためにも、このような知識をみにつけて、
業務で不良品が発生しないように工程状態を管理し、改善に活用しましょう。
F管理図の使用上の注意点とは?
1)管理図はだれがしっておくべき?
管理図は、管理項目や基準を明確にし、業務の責任を現場の担当者に積極的に
委譲していくこともひとつのメリットであるといえます。
そのためにもこのような管理図の有効性やルールを現場担当者だけでなく、
業務責任者がしっかりと理解しておくことが大切になります。
ですから、長期間管理図を継続的に運用してツールを組織としてつかいこなすためにも、
業務責任者にも管理図をしっかり理解してもらい、運用していきましょう。
2)管理図の管理アウトと仕様書のスペックアウトの違いとは?
管理図による管理アウトと仕様書のスペックアウトとは似ているようで
まったく違うものですので、その違いを理解しておきましょう。
管理図の管理アウトは、Eで示した8つのルールにもとづく工程や製品のばらつきを
3σを基準にして判定したものですので、8つのルールからはずれていたとしても、
最終製品の仕様書を満たしている可能性もあります。
つまり、最終製品の仕様からはずれないように工程や製品のばらつきを管理するために
用いられるのが管理図ですので、スペックアウトの考えと混同しないように注意が必要です。
一方、仕様書のスペックアウトは、最終製品で検査したときに、
要求した仕様書に記載された基準をみたしていないことになりますので、
不適合品(不良品)ということになります。
このような不良品をださないように管理するために使用されるのが管理図ですね。
3)管理図を効果的に活用するためには?
管理図は、単独に使用するだけでなく、他のQC7つ道具と併用して使用すると
より効果的になります。たとえば取得したデータを詳細に分析するために、
『層別』して、機械の1号機と2号機をわけて、管理図のデータを取得する、
特性要因図を用いて、重要な特性項目のみ抽出して、管理図を活用するなど、
費用対効果や分析の精度をあげるためにより実務的な使い方をしていくことが大切になります。
また、管理異常が発生した場合にどんな改善対応をとるかという
アクションガイドライン(AGL)をきめて、手順として標準化しておくことも大切です。
4)管理図は社外の管理にも適用できる?
■生産部門の方であれば、
自社の管理する工程や設備で管理図を活用することができます。
その場合は、装置に管理図を張って管理して、打点していくこともよく現場では行われています。
また、最近では、管理図のための専用ソフトを活用していることろやエクセルで
管理図用のシートを社内イントラネットで共有して管理している企業も多くみられますが、
パソコンで管理すると、入力することが目的となり、管理図本来の工程を管理して、
未然に問題を防止するという観点がおろそかになりがちになりますので注意が必要です。
■技術部門の方であれば、
サプライヤーさんから供給をうける部品の特性データを管理図として、
定期的に提出してもらうことで、品質確認することができます。
特に品質問題が発生しやすい生産立ち上げ直後には、
製品の特性データ(寸法や電気特性など)は、ばらつきが発生しやすいため
注意を要しますので、初期流動期間として一定期間報告してもらい、
一緒に問題を解決していくように改善を促すことが有効です。
あわせて、Cpkなどの工程能力指数のデータも提出してもらい、
スペックアウトとの関連性も同時にみていくことができればさらによいでしょう。
管理図は、自分が使用するという発想で学んでいる方も多いですが、
実務では、サプライヤーを管理する立場で製造品質を継続して確認するためにも
活用することができますので、うまく活用してみてください。
5)管理図の更新とは?
一般に管理図は、初期生産時は安定しないため、解析用管理図といわれ、
安定した場合は、管理用管理図として移行していきます。
さらに、管理図は、ある一定期間継続してデータ取得していると
ばらつきがより少なくなった管理状態となることがあります。
その場合は、管理限界線を新たにひきなおすために直近のデータをにもとづき、
新たにσを算出し、より厳しい状態の管理限界線をひきなおし、
管理していくかようにすることが推奨されています。
6)どんな管理図があるの?
代表的な管理図には、下記のようなものがあります。
【計量値〜連続的な数値 例)身長、体重、成分、強さ など】
@X(バー)-R管理図 〜 平均値(Xバー)と範囲(R)
Aメディアン管理図 〜 メディアン(中央値)と範囲(R)
BX管理図 〜 個々のデータ
【計数値〜離散的な数える数値 例)不良個数、不良率、欠点数 など】
Cp管理図 〜不適合品率(不良率) 例)1日に生産した製品中の不良数
Dnp管理図 〜不適合品数(不良数) 例)ロット中(一定数量)の中の不良数
Ec管理図 〜不適合数(欠点数) 例)同じサイズのガラス板中の異物
Fu管理図 〜単位あたりの不適合数(欠点数) 例)長さの異なるシート中の異物
■ 不良率を管理するp管理図は、こちらの記事からエクセルフォーマットをダウンロード
できるようにしていますので、ご参考にどうぞ!
・P管理図とは? 品質管理研究所
■ 実務上の工程管理でよく使用されるのがX(バー)-R管理図ですので、
X-R管理図をまずは、つかって慣れてみるとよいでしょう。
※X-R管理図の作り方は、こちらのHP(クォリティマインドさん)をご参考まで
管理図の管理限界線の算出方法は、管理図用計数表を用いて算出されますので、
上記HPをご参考にして計算してみてくださいね。
今回は、管理の考え方、管理するためのツール『管理図』について考えてみましたが、
あくまで道具なのでつかわないとさびついてしまいますし、すぐにわすれてしまいますので、
業務で管理図をつかいはじめて、品質向上にすこしづつ役立ててみてくださいね。
【関連記事】
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・節目管理は、記念日管理?
・『QC工程表』って何?
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・就活から学ぶ部材品質管理とは?
・生産設備の体調管理とは?
【管理図の最新記事】
私も品質保証を生業としています.
後進育成の同志を発見して大変うれしいです.
はじめまして
品質管理研究所 かおるです。
林さまのHPは、内容が濃く、
大変勉強になるすばらしい内容で、
管理図についてのご説明が
非常にわかりやすかったので、
リンクをさせていただいておりました。
こちらこそ、どうもありがとうございます。
これからも、実務に役立つ品質について、
すこしでも多くの皆様と生きた情報を
共有できればと思っております。
品質管理研究所
かおる