(2015年1月4日)品質管理研究所
「グッドマンの法則」は、顧客サービスのあるべき姿を考える上での大切な視点のひとつです。
「グッドマンの法則」は、1970年代の米国企業の苦情処理の実態調査「Consumer Complaint Handling in America」を実施した、アメリカの顧客サービスと消費者行動研究の第一人者であるJohn A.Goodman(グッドマン)氏の名前からつけられ、見えにくい顧客サービスの損失とカスタマーサービス向上の必要性を示しています。
著書『グッドマンの法則による 苦情をCSに変える「戦略的カスタマーサービス」』では、グッドマンの法則として、以下の3つの法則が紹介されています。
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<グッドマンの法則>
@グッドマン 第一法則
「不満を持った顧客のうち、苦情を申し立てて企業側の対応に満足した顧客の再購入決定率は、不満を持ちながら苦情を申し立てない顧客に比べて極めて高い。」
Aグッドマン 第二法則
「非好意的なクチコミは、好意的なクチコミに比べて2倍もの影響が強いため、販売の足を引っ張る。」
Bグッドマン 第三法則
「企業が適切な情報を提供することで、消費者から企業への信頼度が高まり、好意的なクチコミの波及効果が期待される。さらに、購買意欲の向上や市場拡大につながる。」
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「グッドマンの法則」は、グッドマン氏のオリジナルの文書表現ではなく、佐藤知恭教授の紹介によるものだそうです。これらは、一部であり、カスタマーサービスの向上に必要とされるヒントが他にもたくさん詰まっています。
■ ジョン・グッドマンからのメッセージ CallCenterJapanさん
グッドマン氏の「戦略的カスタマーサービス」の考え方は、現場で活躍されるCS部門、品質部門、コールセンターの方々に対して、実務的な心構えと策を示し、カスタマーサービスの重要性を見落としている経営者の方々にも、以下のような新たな顧客視点を与えてくれます。
<不満足の声は、氷山の一角>
製品やサービスに不満があったときに、企業に直接コンタクトをとり、不満を伝えるでしょうか。多くの場合は、自分の心の中にとどめて、次は異なる製品やサービスを選択するという行動をとる方が多いのではないでしょうか。
グッドマン氏の調査結果においては、
「消耗品や低価格商品に関しては、顧客が何らかの不満を体験した際にクレームを申し立てる割合は、わずか5%〜10%」
ということから、「Silent complaints」(静かな苦情)の存在を明らかにしているといえるでしょう。
不満足な経験をしても苦情を企業にはつたえず、他の競合製品へとのりかえる不満を持った顧客もいるのです。
コールセンターなどを通じて、企業に伝えられるお客様からの苦情は、不満足の氷山の一角なのです。
海面下の氷山のように、水面下に隠れた見えない不満足に対して、どれだけ目を向けられているでしょうか。
そして、この見えない不満足が、企業において、どれだけの機会損失となっているのでしょうか。
苦情はメーカーではなく、販売店さんに寄せられ、とどまることもあります。
苦情が組織に届いても、組織内で正しく伝わり、改善にむすびついていないこともあります。
組織のいろいろなところに苦情情報の欠落と、サービス品質の向上につながるかぎが隠れています。
<不満足の口コミの影響力の大きさ>
1980年代のアメリカのコカコーラ社向けの調査では、
「好意的なクチコミ5人に、非好意的なクチコミ10人に広まる」
ことが紹介されています。
好意的なクチコミよりも、非好意的なクチコミのほうが広がりやすいということ。既存のお客様の不満足は、他の多くの購買者へと伝わります。1つの苦情に対する不満足な対応は、多くの潜在的な新規顧客を失うことにつながります。
一方で、グッドマンの第一法則にあるように、苦情に対して適切な対応ができれば、
全ての顧客がのりかえるわけではなく、再度購入してくれる事実があることにも注目すべきです。

<既存顧客維持コストと新規顧客獲得コストの関係>
調査では、24以上の業界で顧客コストが分析され、多くの業界で、
「新規顧客獲得コストは、顧客トラブル解消により既存顧客を維持するコストの約2倍〜20倍、顧客維持コストのほうが小さい」
という結果が示されています。つまり、「新規顧客の獲得コスト」は、「既存顧客の維持コスト」より、はるかに高いということからも、既存顧客へのサービス対応の向上により、不足するカスタマーサービスを補うことができれば、新規顧客を獲得する費用と比べても、費用対効果の高い重要な戦略的な投資になることです。
グッドマン氏は、「顧客満足No1」などの品質方針や優れた顧客サービスを表明する企業であったとしても、実務上、顧客サービスよりも、売上に直結する新製品やマーケティングなどへの議論が優先されやすい事実に目を向けています。
顧客サービスへの投資配分がおろそかになる現実と理想とのギャップをうめるため、お客様からの苦情とその対応によってどれだけの機会損失がもたらされるかを財務的な視点と結びつけてカスタマーサービスの必要性を定量的に経営者に提示し、経営トップをうごかし、改善を促すことの必要性を示唆しています。
経営者にこのような新たなカスタマーサービスの見落としがちな視点を提供することは、企業を動かす経営者「てこの原理」の支点をうごかして、組織の力を発揮するための実務上の大切なポイントですね。
以上、お客様と向き合うカスタマーサービスについて、あらためて考えるきっかけになればうれしい限りです。
【参考文献】
[1] グッドマンの法則に見る 苦情をCSに変える「戦略的カスタマーサービス」
[2] Customer Loyalty Management Complaints To Enhance Loyalty John Goodman