AQLに基づく抜取検査のやり方とは? - 品質管理研究所 -
今回は、企業の製品の検査のために活用される抜取検査の活用方法について、
JISZ9015に基づくAQL (Acceptable quality level)による抜取検査のやり方について
抜取検査表と共にご紹介していきます。_______________________
<AQLに基づく抜取検査>
(1)抜取検査とは?
(2)抜取検査の国際規格(ISO)と日本の規格(JIS)
(3)JISZ9015の規格による抜取検査方式とは?
(4)ロットサイズの決定 〜抜取検査の対象ロットサイズとは?
(5)AQLの選択 〜AQL(合格品質水準)とは?
(6)検査水準の選択とは?
(7)検査の厳しさの設定 〜 なみ検査ときつい検査とゆるい検査
(8)主抜取表の活用 〜抜取表から抜取数と合格判定数を決定
(9)検査の切り替えルール
(10)JISZ9015-1を使用するための準備
(11)不合格ロットの処置________________________
まずは、こちらからAQL抜取検査で活用する抜取検査表とサンプルサイズ選択表を
ダウンロードできるようにいたしましたので、ご活用いただければ幸いです。

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JISZ9015-1 AQL指標型抜取検査 抜取検査表(EXCEL) 
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JISZ9015-1 AQL指標型抜取検査 抜取検査表(PDF) 
なお、ご活用の際には、JISの原文に立ち返り、
内容をご確認の上、改めてご使用いただくようお願いいたします。
(1)抜取検査とは?抜取検査は、製品を一定の割合で抜取り、チェックして、品質を維持改善するためのものです。製品の品質は、あくまで製造工程で作り上げるものであることが基本です。検査を通じて、不合格を取り除くということは、本来のあるべき検査の姿ではありません。検査は良品であることを確認するためのチェック機能であることが大前提です。抜取検査は、製品を購入する消費者側の立場で、抜き取り、お互いに合意した水準以上の品質の製品が納入されていることを受入検査するために活用されます。また、生産者側の立場では、生産部門が生産した製品を最終的に品質部門がチェックする最終出荷検査の抜き取り検査としても活用されています。
このように、検査は、生産者側の作り手の立場と購入者の消費者側の2つの立場で考えることが大切です。検査は、製造現場の加工工程のように、製品そのものに付加価値を生むものでありません。検査をせずに合格になっている製品と検査をして合格になっている製品では、消費者にとって何か違うことがあるでしょうか。検査をすれば、検査をした製品には余計な追加の検査コストが加わっていることになります。
一方検査をせず、不良品が出荷されれば、お客様にご迷惑をかけてしまうことになります。生産者としては検査なしには、出荷しにくいのも事実です。検査を増やせば増やすほど、検査のコストは高くつきますが、検査をしなければ、生産者としての不安はつきまとうでしょう。品質不良は、後工程で発見されるほど、その費用損失は大きくなるでしょう。そこで、生産者には、検査によって、一定の歯止めをかけておく、自己チェックが必要になります。
消費者の立場では、不良品は、受け付けられませんが、検査によるコストアップで製品の購入価格が上がるようなことも避けなければなりません。このような生産者と消費者の2つの立場でおこるジレンマをときほぐし、生産者の検査費用の低減と消費者側の不良のリスクを最小限に抑え、安定的な良い品質を維持するための仕組みが、AQLによる抜取検査になります。
今回ご紹介するJISZ9015のAQL抜取検査は、この消費者危険(不満足な製品を合格とする危険率)と生産者危険(満足な製品を不合格とする危険率)を確率の理論をもとに定量的に規定しているところが魅力的なところです。一方、数学的な理論に基づく根拠が背景になっており、製造現場で活用するためにどのように使用すればよいか学習が必要なところが、JIS規格に基づく抜取検査を導入する際のハードルとなっているともいえるでしょう。そこで、今回は、その抜取検査のエッセンスを抽出して、現場で活用できるポイントをまとめてみましたので、うまくご活用いただければ幸いです。(2)抜取検査の国際規格(ISO)と日本の規格(JIS)製品の品質をチェックするために、抜取検査をおこないますが、みなさんはどのような頻度で抜取をして、どのように合否判定をしているでしょうか。そして、国際的なビジネスでも、通用する抜取検査は、いったいどのような基準になっているでしょうか。
現在、日本の製造業の抜取検査として、多くの企業で活用されているものが、
下記のJISZ9015のJIS規格に基づく抜取検査ではないでしょうか。
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計数値検査に対する抜取検査手順- 第0部:JIS Z 9015 抜取検査システム序論Sampling procedures for inspection by attributes –
Part 0: Introduction to the JIS Z 9015 attribute sampling system
このJISZ9015-1の規格は、ISO/DIS2859-1.2 : 1997 の国際規格と一致するように提案されています。つまり、JIS規格とISO規格が一致することで、国際的なビジネスにおいても、品質検査の根拠としては、言語は違っていても、共通の理解ができる検査規格であるといえるでしょう。
品質は、製品が海外で活躍するためのパスポートです。検査の内容だけでなく、その背景にある考え方を理解して、抜取検査に活かしていくことが大切です。■
ISO/DIS2859-1.2: 1997, Sampling procedures for inspection by attributes- Part 1 : Sampling plans indexed by acceptable quality level (AQL) for lot-by-lot inspectionJISZ9015の内容には、日本の工業標準として、ISO2859の国際規格にはない説明事項の記載についても、本文中に下線を引いて、わかりやすく区別して、紹介されている点も見逃せませんので、インターネット上のJISのHPから原文を一度読んで見ることをおすすめいたします。
(3)JISZ9015の規格による抜取検査方式とは?JISZ9015では、抜取検査について、次のような3つの抜取検査のやり方を紹介しています。
@JISZ9015−1 第1部:ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式
AJISZ9015−2 第2部:孤立ロットの検査に対するLQ指標型抜取検査方式
BJISZ9015−3 第3部:スキップロット抜取検査手順実務では、シンプルで活用しやすい、@ISZ9015−1 AQL指標型抜取検査方式が使用されることが多いのではないでしょうか。
今回は、この「ISZ9015−1 ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式」について、ご紹介していきます。(4)ロットサイズの決定 〜抜取検査の対象ロットサイズとは?抜取検査は、その言葉のとおり、生産したものから、一部を抜き取る検査方式です。
まずは、どこからぬきとるか、その全体をどのようにとらえたらよいでしょうか。抜取検査を行う上で必要となる生産全体の数(母数)、いわゆるロット数(ロットサイズ)をどのように定義すればよいでしょうか。企業によって、その生産ロットの定義は、異なります。ロットのサイズをどのように定義するかによって、検査の抜き取り数も変化しますので、ロットのサイズをどのような数にするかあらかじめ定めておく必要があります。
例えば、1日で生産したものを1ロットとするのか、日勤と夜勤があり、それぞれの1シフトで生産したもの1ロットとするのか、一定数量の生産品を1ロットとするのか、ロットに対する定義はさまざまです。
JIS規格で紹介されているロットサイズを設定する上での注意ポイントは、次の3つです。
@ロットサイズの決定は生産工程の知識なしにはしないほうがよい。
Aほとんど全ての場合にはロットサイズの上限および下限をきめることが望ましい。
Bロットは、実質的に同一の条件で生産されたアイテムで構成することが望ましい。生産品は、ロット毎に検査されますので、ロット間での検査の合否の情報は連続的な生産の中では重要な工程の傾向的変化を示す大切な情報として活用することが求められます。そのため、ロット毎の検査では、抜取後、製造の順番と同じで、先入れ先だし(FIFO)ですぐに検査をして、現場にフィードバックすることが求められます。また、ひとつのロットをあまりに大きい単位にしてしまうと、品質問題が発生した際のロットアウトの対象数が多くなることも理解しておく必要があります。
ロットをどのように定義するかによって、企業における品質の姿勢が見えてくるものです。(5)AQLの選択 〜AQL(合格品質水準)とは?製造現場でAQL(えーきゅーえる)という言葉をどこかできいて、聞き覚えがある方も多いのではないでしょうか。
AQLとは、Acceptance quality limit、「合格品質限界」の略称です。
JISZ9015-1では、AQLは、『継続して連続ロットが抜取検査に提出されるときに、許容される工程平均の上限の品質水準』として、定義されています。製品の品質が、AQLと同じかそれ以上の良い工程からサンプルされたロットの場合であれば、その製品は、多くの場合、合格するということになります。JISZ9015-1では、このAQLをあらかじめ設定して、検査の抜取頻度を決定するため、あらかじめどのようなAQL(%)に設定するかを定めておく必要があります。
JIS規格で紹介されているAQLの設定でのポイントは、以下の通りです。
@AQLの設定においては、AQLが生産のときに要求される品質の指標を与える。
A生産者はAQLより良いロットを生産することを要求される。
BAQLは、生産者の立場で妥当に到達できるものであり、消費者の立場からも妥当な品質でなければならない。
C問題の製品がどのように使用されるか、不具合の結果を考慮する必要がある。例えば、組み立て作業の中で組み込まれる部品に不具合があり、組み立て中に問題として必ずはねられる構造である場合AQLをゆるく設定し、不具合が高価で重要な装置の部品で取替えができないようなもので機能障害を起こすようなものかによって、AQLをきびしく設定するなど、AQLの厳しさを要求する品質と許容できる品質の範囲でうまく変化させることが大切です。
個々の品質特性に応じて、AQLをうまく設定して、製品の要求を満たすように活用していきましょう。
また、AQLを指定することによって、不良品が規定の合格品質限界まで含まれてよいということを肯定するものではけっしてありません。不良品はもちろん、少ないほうがよいという認識のもとで、生産者側、消費者側の立場で、このAQLを使用しなければなりません。(6)検査水準の選択とは?検査水準は、ロットサイズと抜取のサンプルサイズ(サンプリング数)の関係を決定するために必要な水準であり、抜取検査を行う上であらかじめ設定しておくことが求められます。
JISZ9015の抜き取り検査水準は、3種類の通常検査水準(T、U、V)と4種類の特別検査水準(S-1、S-2、S-3、S-4)からなります。
・通常検査水準 (T、U、V)
・特別検査水準 (S-1、S-2、S-3、S-4)通常検査水準は、最も使用される水準であり、他の水準が規定された場合意外は、通常検査水準Uを使用することになっています。(JISZ9015-0で記載)。通常検査水準では、I<U<Vの順番でサンプリングサイズが多くなるように設計されています。また、特別検査水準は、サンプリングサイズを小さくしておかなければならないような状況を想定して、設計されています。
ロットサイズと検査水準を選択することで、下記表JSZ9015-1サンプル(サイズ)文字の指定された一覧表からサンプル文字(英字)を確認します。
例えば、ロットサイズが、300で通常検査水準Uの場合には、『H』を選択することになります。
(7)検査の厳しさの設定 〜 なみ検査ときつい検査とゆるい検査次に検査の3つの水準から検査を選択します。
@なみ検査(Normal inspection)ロットの工程平均がAQLより良い場合に生産者に高い合格の確率を保証するようにした抜取検査方式を使用する検査
※「工程平均」とは、工程が統計的な管理状態にあるときの不良率と解釈できます。
Aきつい検査(Tightened inspection)対応するなみ検査よりもきびしい合否判定基準をもつ抜取検査方式を使用する検査
Bゆるい検査(Reduced inspection)対応するなみ検査よりは小さいサンプルサイズをもつ抜取検査方式を使用する検査
特にゆるい検査という用語は英語で、Reduced inspectionと表記され、本来は、「減らした検査」という意味であることがJIS規格で参考説明されています。
(8)主抜取表の活用 〜抜取表から抜取数と合格判定数を決定選択されたサンプル文字とAQL(合格品質限界)をもとに、抜取表から抜取数と合格判定数を決定します。検査の厳しさにより、下記の3つの表を使い分けていきます。例えば、なみ検査の1回抜取方式(主抜取表)を選択して、
サンプル文字Hで、AQL=0.25%を選択したときには、サンプルサイズ50個を抜取り、
判定は、Ac(合格判定数)=0、Re(不合格判定数)=1ということがわかりますので、
抜き取った50個の中で、不良が1つでもあったときには、不合格ということになります。
不良が0で全て50個良品であれば、抜取検査合格ということになります。
@JIS Z 9015-1 なみ検査の1回抜取方式(主抜取表)
AJIS Z 9015-1 きつい検査の1回抜取方式(主抜取表)
BJIS Z 9015-1 ゆるい検査の1回抜取方式(主抜取表) 
これが、AQLに基づく抜取検査になります。非常に簡単に抜き取り数と判定数を選択できますね。
(9)検査の切り替えルール生産者と消費者の立場、製品の品質状況を加味して、検査の厳しさは変化させます。品質が安定している場合には、なみ検査からゆるい検査へ、品質が不安定な場合は、なみ検査からきつい検査へと移行することで、抜取検査による生産者のコストと消費者のリスクをうまく抑制する仕組みが採用されています。
下記は、検査の切り替えルールです。指定がない場合、なみ検査からスタートして、
連続5ロット以内の初検査で2ロットが不合格になった場合は、次のロットからきつい検査に移行して、次の連続5ロットが合格したときに、もとのなみ検査に復帰します。
消費者に対する安全策として、品質改善のアクションが取られるまで合否判定の検査そのものを停止するというルールがあることがポイントです。きつい検査で一連のロットの中で初検査での不合格の合計が5に達した場合に適用される最も重要な原則となります。もし、品質が悪い場合、適切な是正処置が得られるまで、以後のロット検査を拒絶する資格が与えられているということになりますね。
また、なみ検査からゆるい検査に移行する際には、
「切り替えスコア」という聞きなれない言葉もでてきますが、いったいこのルールはなんでしょうか。切り替えスコアは、なみ検査からゆるい検査に移行するための指標であり、なみ検査の初検査から始められ、都度更新されます。今回紹介する1回抜取方式においては、合格判定個数に応じて、次のようなスコアのカウントの仕方をします。
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■ 1回抜取方式1)合格判定個数が2以上のとき、もし、AQLが1段きびしかったとしてもロットが合格になっていたならば、切り替えスコアに3を加え、そうでなければ、切り替えスコアを0に戻す。
2)合格判定個数が、0又は1のとき、ロットが合格ならば、切り替えスコアに2を加え、そうでなければ切り替えスコアを0に戻す。
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検査をすくなくしてもよいと判断するためには、安定的に合格が続かなければいけないということを示しています。このようなスコアによるチェックは、その煩雑性から実務では敬遠されやすいところで、独自の社内抜取検査方式を作っている企業では、検査の移行ルールを適用している企業は意外と少ないのではないでしょうか。
(10)JISZ9015-1を使用するための準備検査の基準を設定するためには、抜取検査の基準を設定して、適切な社内文書規格にとおとしこむことが求められます。その場合の規定中の要求事項について、JISZ9015-0では、以下の通りまとめられています。
____________________________________
a) その製品に関する検査及び/または試験の各要求事項は、計数値の形で表現する。もし検査する特性が測定可能ならば、計量値抜取検査を使うかどうかをきめる必要がある。
b)各要求事項は、次のような要素を明示することが望ましい。
1)製品のアイテム
2)適用できる場合には、特性のクラス分け
3)各不適合に対して個別にAQLを与えるかどうか、またはグループにまとめるかどうか
(まとめるならどういうグループにするか)
4)各不適合または不適合のグループに要求するAQL
5)各不適合または不適合のグループに要求する検査水準
6)最初になみ検査、きつい検査またはゆるい検査のうちどれを適用するか
7)ロットサイズに何か制限があるかどうか
8)ゆるい検査は使用してよいかどうか
9)もし検査が停止になったら何をすることが望ましいか
10)所轄権限者の指定 ____________________________________
※所轄権限者とは、供給者の品質部門、購入者の検査部門、中立の検査機関のことです。
ポイントしては、1つの製品において、複数の品質特性の評価を含む場合、その重要性に応じて、実務上AQLを分けて設定することができる点です。
製品の品質上重要な特性の場合は、厳しく設定し、それほど影響が大きくない品質特性に関しては、ゆるく設定することができます。例えば、製品の核となる電気的な特性は、厳しく設定し、品質要求の少ない外観上の欠点については、ゆるく設定して、検査の緩急をつけることも可能なので実務に応じて使い分けている企業が多いです。
(11)不合格ロットの処置生産ロットが抜取検査の結果、合格判定基準を満たさず、不合格になった場合どのような処置をとればよいでしょうか。消費者の立場で受入検査した製品が不合格となった場合には、生産者に対して、品質契約にもとづき、次のような処置をおこなうのが一般的です。
・不合格ロットの返却・代納と全数検査
・他の生産ロットに対する不良影響範囲の確認
・顧客の承諾を得た上で、返却品の選別、手直しの実施、不良品の廃棄
※返却手直しの時間がない場合は、お客様先での検査と即納が必要な場合もあり
・生産者へ再提出する際の選別品ロットであることの明示と納期の連絡さらに、次の製品に対しての改善対策と効果の確認のため、
追加で実施導入された対策がいつの納入分から対策されているか計画や日程の提出が
必要になる場合もあるでしょう。
今回は、AQLによる抜取検査の考え方と活用するための抜取検査表をご紹介しました。
国際的なビジネスが増える中で、客観的な抜き取り検査方式を理解して、
みなさんの品質保証にうまく活用していただければ、幸いです。
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