形あるもの、いつかはこわれます。
問題は、いつ、どのようにして、こわれるかです。

製品開発時には、製品に組み込まれる部品や材料は、
市場でのお客様の使用環境、使用頻度、使用条件などを想定して、
使用上の負荷(ストレス)が、継続して加わっても、
十分耐えうる強度(ストレングス)をもった設計をすることが求められます。
さらに、もし、壊れたとしても、安全な壊れ方であることも必要です。
これは、製品の品質や安全を前提とした、ものづくりの基本です。
実使用を想定した経年劣化を考慮した設計をする場合、
ストレス-ストレングスモデルという信頼性設計の考え方が役に立ちます。
(1)Stress-Strength modelとは?

Stress-Strength modelは、大切な製品の品質特性である強度(Strength)が、
輸送や使用環境や条件等に伴う負荷(Stress)に負けてしまうときに、
不良が発生するというシンプルな考え方です。
製品の品質特性である強度(Strength)と負荷(Stress)には、ばらつきがありますので、
そのばらつきの分布の裾野でも、『強度>負荷』となるような設計をしなければなりません。
経年劣化したあとも、この関係が成り立つような設計をすることがポイントです。
(2)ストレス-ストレングスモデルの設計時の活用
製品が故障に至るプロセスを
ストレス-ストレングスモデルにあてはめて考えてみましょう。
例えば、
■ 屋内に掲示物がテープで接着されている場合
初期に保持されていた接着強度(ストレングス)という品質特性が、
エアコンの風や光などの環境条件による負荷(ストレス)によって、低下し、
最終的には、負荷(ストレス)に負けてしまい、はがれてしまうことがあります。
製品の品質特性は、使用環境や使用条件による経年劣化に伴い、
強度が低下する場合があります。
そこで、その強度の経年劣化を考慮した初期の強度設計や
代替品を検討し、負荷にまけない強度特性を確保するなど、
設計時にいかに、強度(ストレングス)を作りこめるかがポイントとなります。
この掲示物の場合は、粘着性の強いテープに変更する、接着面積を大きくする、
画鋲をさすなどして、掲示物がはがれるのを防ぐことができるでしょう。

どのような品質特性が劣化しやすいかは、
強度特性の物理的、化学的な発現メカニズム(どのような原理で、強度がでるかということ)
を理解した上での予測や過去の類似製品の知見や実務経験、失敗経験などから、
ある程度のあたりをつけることができますが、
製品品質を実際に、モノで検証することも大切ですので、
加速試験や限界試験を実施して、試験経過毎の品質特性の劣化を把握し、
品質特性の弱点を短期間で探り、改善を図っていくことが行われます。
応力解析、熱解析などのシミュレーションが活用できる場合も、
現物による評価と合わせて、うまく活用したいものです。
(3)ストレングス(強度)の改善
強度に問題がある場合は、
具体的な設計改善としては、下記の3つの方向で
品質特性の改善を図ることが求められます。
製品設計時には、初期の品質特性を見てしまいがちですが、
経年劣化という時間軸をいれた品質の概念をもりこむことが大切です。
@ストレングスを高める 〜初期の強度の向上
Aストレングスのばらつきを抑える 〜強度のばらつき減少
Bストレングスの低下を抑える 〜経年劣化の低減
ストレングスは、製品の製造ばらつきとしてあらわれてくるため、
製品の信頼性検証試験においては、ばらつきも把握できるように、
試験数を確保した検証することが求められます。
(4)市場環境の変化に伴うストレスの増大
私達の日常では、新しい仕事についたり、新しい組織に異動したり、
周囲の環境が変化すると、ひとによってストレスの受け止め方はことなりますが、
さまざまなストレスが心や体の負担となる場合があるのではないでしょうか。

製品も、輸送され、使用される中で、その環境や条件がかわれば、
その負荷(ストレス)も変化することを理解する必要があります。
ある製品で、日本では問題なく運搬、使用されていたのに、
ある国Aでは、同じ仕様でも、不良が発生することもあります。
下記は、市場Aから市場Bに環境が変化したときの負荷(ストレス)の上昇に伴う
不良の発生をStress-Strength modelで表現しています。

ストレスは、製品の使用環境や使用条件や使用頻度によって変化し、
ストレングスと同様にばらつきがあります。
■ 市場の違いによる輸送不良の発生
例えば、ある国の市場Aでは、製品の輸送時に梱包が壊れることがなくても、
ある市場Bでは、輸送するトラックの走る道路が荒れていて、
さらに製品の取扱が粗く、Stressが増えて、梱包が破損し、
製品がお客様に届く前に不良となってしまうような場合などがあてはまります。

製品がグローバルに展開される中では、
自国の常識や先入観は、弊害となることも多く、
現地の常識や使用環境を理解することが大切です。
輸送に伴う梱包破損の不良については、
・輸送梱包仕様の耐荷重性能などのStrengthの強化
・取り扱いの丁寧な輸送業者の選定によるStressの低減
・輸送梱包に取扱注意を喚起する表示によるStressの低減
などの取り組みを実施することが求められます。

輸送については、経時変化の場合ですが、同様に、
お客様での使用環境や使用条件や使用頻度に基づく経年劣化を考慮した
製品設計をすることが求められます。
市場Aで実績があるからといって、
市場Bで品質不良がおきないとはいえませんので、
品質の過信は、禁物ですね。
ひとの場合、ストレスは、お酒をのめば発散できるという方もいるでしょうが、
製品の場合は、うけたストレスをうまく発散することもできずに負荷が蓄積され、
経年劣化へと結びついていくのです。
設計者には、ぜひ、ストレス-ストレングスモデルを理解して、
長期にわたるストレスに耐えられるようなストレングスのある
製品設計をしてもらいたいものですね。
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